体育研究所 研究プロジェクト

体育研究所 2024年度 研究プロジェクト5「競技力向上に関する研究」研究業績

【杉田正明】Kinematic analysis on segment angle and angular velocities of recovery leg of world elite race walkers regarding race-walking judgement on world elite competition of athletics

著 者
Koji Hoga-Miura, Masaaki Sugita
掲載雑誌
Gazzetta Medica Italiana, 183(7-8): 619-626
概要

この研究は、競歩競技における「浮き」の判定基準を運動学的観点から解明することを目的としました。世界トップレベルの競歩選手48名(男子20km、男子50km、女子20km各16名)を対象に、2kmサーキットでの最速ラップ時の動作をデジタルカメラで撮影・解析しました。結果、浮きの判定に関連する運動学的要因として、回復期前半における下腿の前方スイング角度・速度、および踵速度のベクトル角が重要な判定基準であることが判明しました。特に、つま先離地時の下腿前方スイング角度と踵速度ベクトル角が浮き判定の決定的要因として特定されました。

【杉田正明】体操競技におけるトレーニングおよび傷害の実態調査に関する文献レビュー

著 者
笹田 夏実, 温水 鴻介, 杉田 正明
掲載雑誌
運動とスポーツの科学, 30(1): 1-9
概要

この研究は、米国・欧州の体操選手の傷害実態を調査し、適切な訓練方法と傷害予防に関する知見を得ることを目的としました。その結果、トップレベルの体操選手は年間を通じて週20時間以上の訓練を行い、男女間に有意差はありませんでした。年齢・競技レベルの上昇に伴い訓練時間は増加し、女性選手の方が多くのセッション・反復回数を行いました。傷害は大学生に多く、男性選手は上肢、女性選手は下肢の傷害率が高く、再発率も高いことが示されました。女性選手の膝傷害は練習時より競技時に5.43倍多く発生しました。週12時間以上の訓練は傷害リスクを増加させるため、今後は訓練量・疲労・コンディションの定量化が必要です。

【杉田正明】Light Clenching Differentially Affects Balance Ability According to Occlusal Contact Stability

著 者
Mutsumi Takahashi, Yogetsu Bando, Takuya Fukui, Masaaki Sugita
掲載雑誌
Applied Sciences, 14(22): 10314
概要

この研究は、咬合接触の左右分布に基づく安定性を評価し、参加者を均衡群と不均衡群に分けて、軽い咬みしめがバランス能力に与える影響を検討しました。健康な男性41名を対象に、感圧フィルムによる咬合接触検査を行い、均衡咬合接触群(BOC群)と不均衡咬合接触群(UOC群)に分類しました。重心動揺計を用いて静的・動的バランス能力を測定し、下顎安静位と軽い咬みしめ時で比較しました。その結果、咬みしめによるバランス能力の変化はBOC群のみに認められ、静的バランスは軽い咬みしめ時に、動的バランスは安静位時に向上しました。咬合接触が安定している場合は咬合が姿勢制御に影響するが、不安定な場合は影響しないことが示されました。

【杉田正明】心拍数とゲーム分析結果からみた日本人大学男子アイスホッケーの運動特性

著 者
石井健人, 温水鴻介, 笹田夏実, 杉田正明
掲載雑誌
トレーニング科学, 36(4): 283-291
概要

本研究は、日本人大学生男子アイスホッケー選手を対象に心拍数の収集およびゲーム分析結果から試合中の運動内容について検討することを目的としました。公式戦9試合で心拍数を収集し、うち3試合でゲーム分析を行いました。その結果、選手は3.3±2.6分間の休息を挟んで51.5±19.4秒間のプレーをピリオドあたり7.0±2.2回繰り返し、心拍数は試合中のピークで94.9±3.2%HRmaxまで上昇することが明らかになりました。第3ピリオドにおける1シフトあたりのプレー時間は有意に減少していました。シュート回数と高強度スケーティングの頻度には相関関係が示されました。試合終盤まで高いパフォーマンスを維持するためには、高い有酸素性能力が重要であることが示唆されました。

【杉田正明】エリートレベルの女子陸上長距離選手における 暑熱環境下での長距離走が運動後の鉄代謝に及ぼす影響

著 者
石橋 彩, 松生香里, 橋本 峻, 杉田正明
掲載雑誌
トレーニング科学, 36(4): 293-302
概要

肝臓から分泌されるホルモンであるヘプシジンは、鉄欠乏性貧血の発症に関与している可能性が指摘されています。しかし、暑熱環境下での長時間運動がヘプシジンの分泌に及ぼす影響は明らかではありません。本研究では、女子陸上長距離選手11名を対象に暑熱環境下での長距離走を実施し、血液および尿サンプルを採取しました。その結果、運動3時間後の尿ヘプシジン濃度は運動前と比較して有意に上昇しましたが、運動24時間後では変化がみられませんでした。運動前の炭水化物摂取量と運動直後の血漿IL-6濃度および運動3時間後の尿ヘプシジン濃度との間には有意な負の相関関係が認められました。暑熱環境下での長距離走は運動3時間後の尿中ヘプシジン濃度を増加させる可能性が示唆されました。

【杉田正明】フィギュアスケート選手における陸上回転 ジャンプのパフォーマンス評価

著 者
竹内洋輔, 阿江数通, 髙橋隆宜, 沼津直樹, 田村達也, 杉田正明
掲載雑誌
トレーニング科学, 36(4): 273-282
概要

本研究の目的は、フィギュアスケート選手による陸上回転ジャンプのうち鉛直軸まわりの回転運動を生み出すメカニズムを、全身のバイオメカニクス的変数から評価することとしました。国内トップレベルの男性8名および女性13名のフィギュアスケート選手が参加し、全力での陸上回転ジャンプを行いました。肩回転角は、ピーク角速度、平均角速度、跳躍時間との間に有意な正の相関関係がみられました。また、全身の角運動量(踏切局面)は、左右上肢および頭・上下胴の成分が大きく寄与していることが明らかになりました。陸上回転ジャンプは、1)離地までに上半身を用いて角運動量を生成し、2)下肢動作を用いて跳躍時間を延長し、3)空中局面では上肢を鉛直軸に近づける動作により角速度を維持することで評価できます。

【杉田正明】大学男子長距離走選手におけるEPA 摂取が血中EPA 濃度,EPA/AA 比,競技記録に与える効果

著 者
中澤翔, 杉田正明
掲載雑誌
スポーツパフォーマンス研究, 17: 66-73
概要

本研究は,6 ヶ月以上にわたるEPA 摂取が血中EPA 濃度,EPA/AA 比,5000m 走記録に与える効果について検討することを目的としました.大学男子長距離走選手58 名(5000m 走記録14 分30 秒6 ± 30 秒0)を対象にした結果,(1)EPA の摂取群は非摂取群よりも血中EPA 濃度,EPA/AA 比が高く,(2)摂取群の血中EPA 濃度,EPA/AA 比,5000m 走記録は摂取前から摂取後にかけて向上しました.(3)EPA 摂取した選手を事例的に分析した結果,EPA 摂取した時期から血中EPA 濃度,EPA/AA 比および競技記録の向上がみられました.以上のことから,EPA 摂取により,血中EPA 濃度およびEPA/AA 比を高め,安全で良好なトレーニングを実施できたことが予想され,結果として,競技記録向上に効果がある可能性が示されました.

【杉田正明】大学女子サッカーのゲーム中における運動強度およびランニングパフォーマンスに関する事例的研究

著 者
温水 鴻介, 石井 健人, 笹田 夏実, 大槻 茂久, 杉田 正明
掲載雑誌
運動とスポーツの科学, 30(2): 163-172
概要

本研究は、関東大学女子サッカーリーグ1部の女子選手28名を対象に、GPS内蔵心拍計を用いて公式戦16試合における運動強度と走行パフォーマンスを分析し、試合結果との関係を検討しました。最大心拍数は192.0±4.4bpm、平均心拍数は169.2±14.6bpmでした。総走行距離は10.1±0.3km、総スプリント回数は17.2±3.6回でした。試合結果と総走行距離・総スプリント回数の関係を調べた結果、勝利時は敗戦時と比較して両項目とも有意に高い値を示しました。これは日本の大学女子サッカー選手の公式戦における運動強度と走行パフォーマンスを調査した初の研究であり、コーチが選手の競技力向上を図るための有用な知見を提供します。

【杉田正明】短期間反復型高地トレーニングに対する酸化ストレス指標を用いた コンディション評価に関する事例研究―日本人一流長距離走選手2名を対象として―

著 者
谷口耕輔, 橋本峻, 杉田正明
掲載雑誌
陸上競技学会誌, 23: 63-72
概要

本研究では,日本人一流長距離走選手 2 名を対象に、競技会に向けた短期間反復型高地トレーニング合宿の期間中および期間後における酸化ストレス指標をもとにコンディションの知見を得ることを目的としました。合宿経過に伴って酸化還元バランスに変化が生じること、睡眠の質の向上や,合宿後から競技会までの期間にかけて、d-ROMs が低く,BAP/d-ROMs が高くなることが,競技会で良いパフォーマンスを発揮した選手の特徴であることが示されました。

【杉田正明】試合における大学男子硬式テニス選手のサーブ動作の分析 :スタンス別ラケットスピード上位群と下位群の比較

著 者
堀内健太郎, 杉田正明, 沼津直樹, 河鰭真世, 阿江通良
掲載雑誌
コーチング学研究, 38(2): 157-170
概要

本研究は、日本人男子大学テニス選手28名の試合中のサービス動作を分析し、ラケットスピードの異なる2群間で足のスタンス別に運動学的要因を比較することを目的としました。ラケットスピード39.00±3.67m/s以上の12名を高速群、それ以下の16名を低速群に分類しました。両群間でラケットスピードとボールスピードに有意差が認められました。足上げスタイルの選手では、トス~フォワードスイング局面における体幹後傾角度と股関節屈曲角度、およびサービス動作中の右肩外転角度で両群間に差がみられました。足後ろスタイルの選手では右肩の水平外転角度で両群間に差が認められました。結果から、足上げスタイルの低速群選手はバックスイング局面での体幹後傾を減らし、右腕を左腕より遅いタイミングで挙上すべきことが示唆されました。

【大塚光雄】The association among ball speed and the rotation of pivot leg, pelvis, and trunk separation in collegiate baseball pitchers

著 者
Naoki Wada, Mitsuo Otsuka, Yuta Yamaguchi, Takehiko Tsuji, Takatoshi Kojo, Tokuyoshi Kono, Tetsunari Nishiyama
掲載雑誌
Heliyon. 11(3): e42314
概要

本研究は、野球投手における投球速度と骨盤や軸足の長軸回りにおける運動学変数との関係を明らかにすることでした。18名の大学野球選手が最大努力で投球する際の動作を三次元モーションキャプチャシステムによって撮影しました。その結果、ストライド足接地時における体幹のセパレーションは、骨盤と軸足の長軸回りの回旋運動によって引き起こされ、投球速度の増加に貢献していることが示唆されました。

【大塚光雄】Age-Related Differences in Electromyographic Latencies of the Lower Limb Muscles in Standing Sprint Initiation in Boys During Childhood and Adolescence

著 者
Mizuki Kitamura, Tadao Isaka, Mitsuo Otsuka
掲載雑誌
Pediatr Exerc Sci.10: 1-7
概要

本研究は、幼少・思春期における男児の年齢と疾走開始パフォーマンスとの関係を明らかにすることでした。5歳から19歳の45名日本人男性を対象に、5回の2m全力疾走を実施し、その際の下肢6箇所の表面筋電図、両足裏にかかる地面反力を測定しました。その結果、思春期開始前における反応時間の短縮は、特に後ろ足大腿部後面・下腿部後面の筋活動の変化によって達成されることが示唆されました。

【大塚光雄】Different morphology and function of hip extensor muscles between sprint runners and sprint cyclists

著 者
Yuta Yamaguchi, Tetsunari Nishiyama, Naoki Wada, Wataru Fukuda, Masuhiko Mizuno, Mitsuo Otsuka
掲載雑誌
Sci Rep. 15:16372
概要

本研究では、類似した股関節伸展動作を行う異なる競技者における股関節伸展筋群の形態、機能および筋活動の違いを明らかにすることを目的としました。陸上短距離走選手10名と自転車競技選手10名を対象に、臀部・大腿部のMR画像を撮影し、股関節伸展筋の等尺性筋収縮力の測定を行いました。その結果、自転車競技選手は、陸上短距離走選手と比べ、より股関節が屈曲位で大臀筋の活動を活性化させ、その結果、屈曲位での股関節伸展筋力を高めていることが示唆されました。

【大塚光雄】Relationship between maximal jumping height in pole vault and the approach-run velocity evaluated by digitising method or laser method

著 者
Fumiaki Kobayashi, Atsuto Noro, Shigeo Hatakeyama, Yasushi Shinohara, Mitsuo Otsuka
掲載雑誌
Sports Biomech, in press
概要

本研究は、棒高跳の競技を対象とし、ハイスピードカメラによって求めた助走速度やレーザー変位計によって求めた助走速度の妥当性の検証を行いました。ブランドオルトマン検査の結果、特にレーザー変位計によって求める助走速度の取り扱いには十分、気を付けなければならないことが明らかとなりました。また棒高跳における最大跳躍高が高い者ほど、最高助走速度が高く、且つ、自走速度の減速量が小さいことが明らかとなりました。

【大塚光雄】日本体育大学スポーツバイオメカニクステキスト

著 者
西山哲成、大塚光雄
出版社
叢文社
概要

本著は、日本体育大学で展開されている科目「スポーツバイオメカニクス」において使用される教科書として執筆されました。合計14章を通して、スポーツバイオメカニクスの外観、姿勢の調節、力と運動の法則およびスポーツパフォーマンスの分析・評価に関する解説を行いました。特に競技力を高めることを日常的に狙っている学生が興味をもてるように、簡潔に、且つ、即効性のある情報提供をしています。

【大石健二】2020東京五輪空手組手競技における順位別と得点技に関する戦術研究

著 者
大徳 紘也, 大石 健二
掲載雑誌
武道学研究, 56(2): 105-118
概要

本研究は、2020年東京オリンピック・パラリンピック競技大会における空手組手競技における得点技の特徴を明らかにし,世界トップレベルの競技者の戦術的行動を把握するとともに,指導実践に有効な知見を得ることを目的としました.分析対象は,同大会に出場した60名の選手による132試合の組手競技でした.分析項目は,攻撃技およびカウンター技からなる突き技3種類,蹴り技5種類と投げ技1種類の計18種類の技動作とし,各技動作における得点の有無としました.本研究結果から,得点は,蹴り技よりも突き技によって多く獲得されていたことが明らかになりました.

【大石健二】大学空手組手競技者における成績別による戦術意識の差異

著 者
大徳 紘也, 西山 哲成, 大石 健二
掲載雑誌
運動とスポーツの科学, 30(2): 99-112
概要

本研究は競技成績の異なる大学組手競技者を対象とし,競技成績における意識特徴の比較し,競技レベルに適した戦術コーチングに有効な知見を獲得することを目的としました.本研究は,大学空手組手競技者94名を対象に組手競技の戦術意識に関するオンラインアンケート調査を実施しました.自由記述回答は共起分析と対応分析を実施しました.共起ネットワーク図による上位群の特徴は,先取点や得点獲得に関連する単語を他の場面にも関連させながら戦術を意識していると考えられました.また,対応分析の結果により試合序盤は、上位群、下位群共に先取点の獲得を狙う戦術であったと考えられました.

【大石健二】Monitoring of Salivary Secretory Immunoglobulin A Quantified Two Methods During High-Altitude Volleyball Training Camp

著 者
Ryota Sone , Kenji Yamamoto , Shinsuke Tamai , Honoka Goji, Kenji Ohishi
掲載雑誌
Physiologia, 5(1): 8
概要

本研究は,高地でのバレーボール合宿中におけるs-SIgAの変化を詳細に観察するとともに,酵素免疫測定法(ELISA)とラテラルフロー法(LFD)という2つの定量法によるs-SIgA応答の違いを検討することを目的としました.本研究は男子大学バレーボール選手24名を対象としました.合宿中の測定は,1日目,4日目と7日目としました.ELISAとLFD法によるs-SIgA濃度は4日目に有意に低下し,7日目までその低下が継続しました.また、LFD法とELISA法によって定量されたs-SIgA濃度の間には有意な正の相関が認められました.

【大石健二】へき地指定地域の中学校在籍生徒の新体力テスト結果と運動有能感の関係性

著 者
大石 健二、宇部 弘子
掲載雑誌
子どものからだ研究, 1: 51-58
概要

本研究の目的は,へき地に在住する中学生を対象に新体力テストと運動有能感との関連を明らかにするとともに運動有能感の新たな評価方法の有用性を検討することとしました.8種目から成る新体力テストと岡澤らによる運動有能感テストを実施した36名のデータを用いて分析を行いました.本研究結果より,2年生と3年生の制御感において天井効果が確認されました.そのため,新たな評価法としてオッズ比を用いた分析を実施しました.これらの結果からオッズ日を用いた新たな評価手法は有用であるとことが示唆されました.