体育研究所 研究プロジェクト

体育研究所 2024年度 研究プロジェクト3「中高齢者の健康寿命延伸に関する研究」研究業績

【岡本孝信、菊池直樹】Association of the GALNTL6 polymorphism with muscle strength in Japanese athletes

著 者
Ayumu Kozuma, Eri Miyamoto-Mikami, Mika Saito, Hiroki Homma, Minoru Deguchi, Shingo Matsumoto, Ryutaro Matsumoto, Takanobu Okamoto, Koichi Nakazato, Noriyuki Fuku, Naoki Kikuchi
掲載雑誌
Biology of Sport, 42(3): 161–167
概要

本研究では、GALNTL6遺伝子rs558129多型が筋力に及ぼす影響について、日本人のアスリートを対象に検討しました。日本のパワー系競技者と一般の人を比べたところ、全体では違いは見られませんでしたが、レスリング選手にはTT型の保有者の頻度が高いことがわかりました。また、アスリートの膝の伸展筋力との関連性を検討したところ、Tアレル保有者において筋力が高い結果となりました。これらの結果から、GALNTL6遺伝子rs558129多型は筋力に影響し、特にレスリング選手の遺伝特性と関連することが示唆されました。

【菊池直樹、岡本孝信】Association Among MCT1 rs1049434 Polymorphism, Athlete Status, and Physiological Parameters in Japanese Long-Distance Runners

著 者
Shotaro Seki, Tetsuro Kobayashi, Kenji Beppu, Manabu Nojo, Kosaku Hoshina, Naoki Kikuchi, Takanobu Okamoto, Koichi Nakazato
掲載雑誌
Inkwan Hwang Genes, 15(12): 1627
概要

本研究では、運動後の血中乳酸濃度との関連することが知られているMCT1遺伝子T1470A多型が、日本人長距離ランナーにおける持久力や有酸素性能力に及ぼす影響について検討しました。その結果、競技レベルが高いほどAA型保有者(運動後の血中乳酸濃度が低いことが報告されている)の頻度が高く、さらにAA型保有者は乳酸性閾値時の最大酸素摂取量や、最大酸素摂取量が有意に高い結果となりました。これらの結果から、MCT1遺伝子のT1470A多型は、日本人長距離ランナーの有酸素運動能力に影響することが示唆されました。

【岡本孝信、菊池直樹】Effect of the ACTN3 R577X Polymorphism on Serum Creatine Kinase and Interleukin-6 Levels after Maximal Eccentric Exercise

著 者
Minoru Deguchi, Hiroki Homma, Kathleen Y. de Almeida, Ayumu Kozuma, Mika Saito, Yosuke Tsuchiya, Karina Kouzaki, Eisuke Ochi, Takanobu Okamoto, Koichi Nakazato, Naoki Kikuchi
掲載雑誌
American Journal of Physical Medicine & Rehabilitation, 1;104(5):415-421
概要

本研究は、ACTN3 R577X遺伝子多型が伸張性運動後の筋損傷および炎症反応に与える影響を検討したものです。95名の日本人若年者が最大努力による上腕の伸張性運動を実施し、運動前後および1~4日後および5日後に筋力、可動域、筋痛、クレアチンキナーゼ(CK)、インターロイキン6 (IL-6)を測定しました。その結果、CK値の変化にはACTN3遺伝子多型による有意な違いが見られ、特にXX型(ACTN3が発現しない群)ではCK値が高くなる傾向が確認されました。このことから、ACTN3遺伝子多型は筋損傷の指標に影響を与える可能性があることが示唆されました。

【菊池直樹、岡本孝信】Identification of Genomic Predictors of Muscle Fiber Size

著 者
João Paulo L.F. Guilherme, Ekaterina A. Semenova, Naoki Kikuchi, Hiroki Homma, Ayumu Kozuma, Mika Saito, Hirofumi Zempo, Shingo Matsumoto, Naoyuki Kobatake, Koichi Nakazato, Takanobu Okamoto, George John, Rinat A. Yusupov, Andrey K. Larin, Nikolay A. Kulemin, Ilnaz M. Gazizov, Edward V. Generozov, and Ildus I. Ahmetov
掲載雑誌
Cells, 13(14): 1212
概要

筋線維の断面積(CSA)は筋量や筋力と関係し、加齢による筋線維の萎縮はサルコペニアの特徴とされています。本研究では、過去の大規模解析で特定された1535の遺伝子多型が、速筋線維のCSAと関連するかを148名の運動習慣のある被験者で検討しました。その結果、57の一塩基多型(SNP)がCSAと関連し、うち31は握力とも関連しました。さらに、16の遺伝子多型がアスリートの競技特性や重量挙げ成績とも関係していました。これらの遺伝子型は、パワー系競技への適性に関与する可能性が示唆されました。

【菊池直樹】Influence of ACTN3 R577X Polymorphism on Blood Creatine Kinase Levels Relative to Number of Sprints in Brazilian Professional Soccer Players

著 者
Kathleen Yasmin de Almeida, Hirofumi Zempo, Mika Saito, Tiago Cetolin, Rodrigo dos Santos Guimarães, Andrea Rita Marrero, Aderbal S. Aguiar Jr., Naoki Kikuchi
掲載雑誌
Genes, 15(7): 896
概要

本研究では、試合後のクレアチンキナーゼ(CK)値とスプリント回数の関連性、さらにその関連性に対するACTN3遺伝子R577X多型の影響について検討しました。ブラジル1部リーグに所属するプロサッカー選手を対象に、GPSを用いてスプリント回数を記録し、試合後48時間後にCK値を測定しました。その結果、スプリント回数とCK値との間に有意な正の相関が認められ、特にACTN3遺伝子がRR型の選手で顕著でした。これらの結果は、別の選手集団においても再現され、ACTN3遺伝子R577X多型が筋損傷の程度に影響を及ぼす可能性が示唆されました。

【菊池直樹】The effects of different velocity loss training protocols after 3 weeks of resistance training on muscular strength and power

著 者
Yukina Mochizuki, Takuto Naito, Sayaka Kikuchi, Hiroki Homma, Kathleen Yasmin de Almeida, Naoki Kikuchi
掲載雑誌
Isokinetics and Exercise Science33: 31–39
概要

本研究では、3週間の従来型レジスタンストレーニング(TR)の後に速度低下(VL)を用いたトレーニングが、筋力およびパワーに与える影響を検討しました。対象はトレーニング経験を有する男性20名で、VL期間にはセット内の挙上速度が20%低下するまで反復する群(VL20)と40%低下するまで反復する群(VL40)に無作為に分けられました。その結果、いずれのグループも6週間のトレーニング後に筋力およびスプリント能力の有意な向上が見られました。VL20とVL40の間に有意な差は認められず、TR後に実施するVLトレーニングは、筋力とパワーの維持・向上に有効である可能性が示唆されました。

【菊池直樹】Association Between Total Genotype Score and Muscle Injuries in Top-Level Football Players: a Pilot Study

著 者
Myosotis Massidda, Laura Flore, Paolo Cugia, Francesco Piras, Marco Scorcu, Naoki Kikuchi, Pawel Cięszczyk, Agnieszka Maciejewska-Skrendo, Filippo Tocco, Carla Maria Calò
掲載雑誌
Sports Medicine - Open, 7;10(1):22 2024
概要

本研究は、イタリア人トップレベルサッカー選手64名を対象に、筋損傷と関連する4つの遺伝子多型(ACE、ACTN3、COL5A1、MCT1)の組み合わせが損傷リスクに与える影響を検討しました。その結果、「保護的」な遺伝子型を多く持つ選手は、筋損傷の発生率が低いことが示されました。総遺伝子スコア(TGS)が高い選手ほど損傷リスクが低く、遺伝子情報に基づく個別化トレーニングの可能性が示唆されました。

【菊池直樹】異なる速度低下を用いた筋力トレーニングとスプリントインターバルトレーニングの組み合わせが持久性パフォーマンスに与える影響

著 者
菊池さやか、望月佑季奈、齋藤未花、上妻歩夢、本間洋樹、菊池直樹
掲載雑誌
トレーニング科学
概要

本研究では、速度低下(VL)を用いた筋力トレーニング(ST)後にスプリントインターバルトレーニング(SIT)を行うことが、持久性パフォーマンスに与える影響を検討しました。被験者は成人男女24名とし,SITのみ(SIT群)、VL10%のSTとSIT(VL10群)、VL40%のSTとSIT(VL40 群)の3群をランダムに振り分け、週2回、3週間のトレーニングを行いました。その結果、漸増負荷テストにおける疲労困憊までの時間がVL10群で効果が高い結果となりました。これらの結果から、VL10%のSTとSITの併用は、有酸素性能力を向上させる可能性が示唆されました。

【菊池直樹】ACTN3 R577X polymorphism and muscle injury severity among professional Brazilian soccer players: a heightened impact on female athletes

著 者
Kathleen Yasmin De Almeida, Rodrigo Dos Santos Guimarães, Michele Rafaela Rocha, Mika Saito, Naoki Kikuchi
掲載雑誌
Gazzetta Medica Italiana - Archivio per le Scienze Mediche ;184(3):163-70
概要

本研究は、ブラジル一部リーグの男女プロサッカー選手を対象に、1シーズンにわたる筋損傷の発生率と重症度を、ACTN3 R577X遺伝子多型と性差の観点から検討しました。その結果、女性は男性よりも筋損傷の発生率が高く、Xアレルの保有者は離脱期間が長い傾向がありました。特に女性ではこの傾向が顕著であり、ホルモンの影響や筋力発揮特性の違いも関与すると考えられます。性別と遺伝子を考慮した予防策が重要であることが示唆されました。

【岡本孝信】Acute effects of static stretching exercise-induced decrease in arterial stiffness on maximal aerobic capacity

著 者
Takanobu Okamoto, Yuto Hashimoto, Motoyuki Iemitsu, Shigehiko Ogoh
掲載雑誌
The Journal of Sports Medicine and Physical Fitness, 64(9):849-56 2024
概要

本研究では、静的ストレッチング運動を用いた動脈スティフネスの低下が有酸素性運動能力に及ぼす影響について検討しました。健康な若年男性12名が、全身の静的ストレッチ運動試行と対照試行を無作為に実施しました。その結果、動脈スティフネスはストレッチ後30分で有意に低下し、最大酸素摂取量は対照試行と比較して有意に高い値を示しました。この結果から、静的ストレッチング運動による動脈スティフネスの低下が、最大有酸素性運動能力の向上に寄与する可能性が示唆されました。

【菊池直樹、岡本孝信】Muscle Performance as a Predictor of Bone Health: Among Community-Dwelling Postmenopausal Japanese Women from Setagaya-Aoba Study

著 者
Takahisa Ohta, Hiroyuki Sasai, Naoki Kikuchi, Koichi Nakazato, Takanobu Okamoto
掲載雑誌
Calcified Tissue International, 115:413–420 2024
概要

本研究では、閉経後女性における骨の健康評価において、30秒間椅子立ち上がりテスト(CS-30)が骨強度低下の指標となるかを検討しました。地域在住の女性1,055名のデータを用いて、骨強度を超音波で測定し、CS-30と比較しました。その結果、25回をカットオフとすることで骨強度低下のスクリーニングが可能であることが示され、CS-30は簡便かつ有用な評価指標として活用できる可能性が示唆されました。

【岡本孝信】Characteristics of T2* and anisotropy parameters in inguinal and epididymal adipose tissues after cold exposure in mice

著 者
Madoka Ogawa, Hinako Oshiro, Yuki Tamura, Minenori Ishido, Takanobu Okamoto, Junichi Hata
掲載雑誌
Scientific Reports, 27;14(1):29491
概要

本研究では、寒冷刺激による脂肪組織の褐色化に伴う核磁気共鳴画像法(MRI)で得られるT2値の変化を検討しました。マウスを寒冷(4℃、10日間)および常温(22℃)環境で飼育し、褐色脂肪組織(BAT)や皮下・内臓白色脂肪組織(iWAT、epiWAT)のT2値および拡散テンソル画像による異方性指標を測定しました。寒冷群では、iWATおよびepiWATのλ3値が有意に上昇し、T2値にも組織間の差が認められました。これらのMRI指標は、脂肪組織の可塑性評価に有用である可能性が示唆されました。

【齋藤義信】Epidemiology of adverse events related to sports among community people: a scoping review

著 者
Akihiro Hirata, Yoshinobu Saito, Manabu Nakamura, Yasuaki Muramatsu, Kento Tabira, Kanako Kikuchi, Tomoki Manabe, Kentaro Oka, Mizuki Sato, Yuko Oguma
掲載雑誌
BMJ Open
概要

本研究では、地域住民におけるスポーツ活動時の有害事象の状況について、スコーピングレビューを行いました。適格基準を満たした67件の論文のほとんどは、米国、日本、オーストラリアの報告でした。年齢層は成人が多く、最も多い有害事象は傷害(57件、スポーツ外傷・障害、皮膚創傷・打撲)であり、頻度を報告した論文は13件のみでした。発表された国や地域、報告されたスポーツ種目や有害事象の種類に偏りが見られ、頻度を報告した論文も限られていたことから、質の高い観察研究の必要性が示唆されました。

【齋藤義信】Objective measures of physical activity and frailty in ambulatory adults aged 85–89 years in Kawasaki, Japan: A cross-sectional study

著 者
Takayuki Tajima, Yuko Oguma, Yoshinobu Saito, Yukiko Abe, Lee, I. Min, Yasumichi Arai
掲載雑誌
The journal of Frailty & Aging, 4;13(4)413-420 2024
概要

本研究では、三軸加速度計を用いて客観的に測定された身体活動(PA)または座位行動(SB)と身体的フレイルとの関連性を調査し、SBを異なる強度のPAに置き換えることがフレイルのリスクに与える理論的効果を明らかにすることを目的としました。The Kawasaki Aging and Wellbeing Project(KAWP)に参加した1,004名の85~89歳の自立高齢者を対象としました。フレイル群(242名)は、平均歩数、中高強度PA、低強度PAが低く、SBが高いという結果が得られました。SBを1日10分間、中高強度PAに置き換えることが、フレイルのリスク低下に関連することが示されました。

【齋藤義信】Efficacy of exercise with the hybrid assistive limb lumbar type on physical function in mobility-limited older adults: A 5-week randomized controlled trial

著 者
Yoshinobu Saito, Sho Nakamura, Takashi Kasukawa, Makoto Nagasawa, Yuko Oguma, Hiroto Narimatsu
掲載雑誌
Experimental Gerontology, 1:195:112536 2024
概要

本研究では、自立支援ロボット「Hybrid Assistive Limb(HAL®)腰タイプ」を用いた運動プログラムの短期的な身体機能改善効果を評価することを目的としました。研究デザインはランダム化比較試験であり、フレイル・プレフレイルに該当した高齢者79名を対象に、介入群(40名)と対照群(39名)に無作為に割り付けました。介入群は、HAL®腰タイプを装着した状態で、体幹や歩行のトレーニングを週2回、5週間実施しました。介入群は対照群と比較して、主要評価項目である通常歩行速度の変化量が平均で33%増の+0.35(0.04)m/秒と有意に改善しました。本運動プログラムは、要介護リスクの高い高齢者にとって、自立した生活を続けるための有望な選択肢となることが示されました。

【齋藤義信】Smartphone-Based Digital Peer Support for a Walking Intervention Among Public Officers in Kanagawa Prefecture: Single-Arm Pre- and Postintervention Evaluation

著 者
Masumi Okamoto, Yoshinobu Saito, Sho Nakamura, Makoto Nagasawa, Megumi Shibuya, Go Nagasaka, Hiroto Narimatsu
掲載雑誌
JMIR Formative Research, 24:8:e53759 2024
概要

本研究では、オンライン空間で仲間と励まし合いながら健康習慣に取り組むデジタルピアサポートに着目し、習慣化アプリ「みんチャレ®」を活用して、実行可能性やウォーキングの継続への影響を検証しました。対象は自治体職員63名であり、3か月間の「みんチャレ®」利用中に、最大5人1組の匿名の仲間と励まし合いながら毎日の歩数を報告し合いました。その結果、「みんチャレ®」の3か月継続割合は98%であり、1日あたりの平均歩数は開始前1週間に比べて終了後に約20%増加しました。デジタルピアサポートは実社会で継続利用が可能であり、歩行促進などへの効果も示唆されました。

【齋藤義信】地域在住高齢者における冬季の室温と年間の住宅内の転倒の関連 スマートウェルネス全国調査による横断研究

著 者
伊藤 真紀, 伊香賀 俊治, 小熊 祐子, 齋藤 義信, 藤野 善久, 安藤 真太朗, 村上 周三
掲載雑誌
スマートウェルネス住宅調査グループ 日本老年医学会雑誌, 61 巻 2 号 p. 218-227
概要

本研究では、地域在住高齢者における冬季の室温と住宅内の年間の転倒との関連を検討することを目的としました。冬季2週間の居間床近傍室温を測定し、寒冷群(12℃未満)、準寒冷群(12℃以上18℃未満)、温暖群(18℃以上)に分類しました。907名(寒冷群265名、準寒冷群553名、温暖群89名)を解析した結果、年1回以上の転倒経験者は325名(35.8%)、年2回以上は148名(16.3%)でした。温暖群は寒冷群と比較して、年1回以上の転倒に関するオッズ比は0.49(95%信頼区間:0.26〜0.94)、年2回以上の転倒では0.34(95%信頼区間:0.12〜0.93)といずれも有意に低い結果でした。住宅内で長時間を過ごす高齢者にとって、冬季に良好な温熱環境を保つことは、住宅内での転倒予防に寄与する可能性があると考えられます。