体育研究所 2024年度 研究プロジェクト2「スポーツ医学に関する研究」研究業績
【岡田隆】Applying grip during isokinetic testing significantly impacts the concentric and eccentric strength of the wrist flexors
- 著 者
- Smadar Peleg , Eitan Shemy, Takashi Okada, Michal Arnon, Zeevi Dvir
- 掲載雑誌
- J Hand Ther. 2025 Jan 14:S0894-1130(24)00186-8. 2025
概要
手首の筋力を測るときに「握る」動作をするかどうかで、測定結果にどのような違いが出るかを調べました。健康な大人40人を対象に実験を行ったところ、手首を曲げる力(屈曲)は、握って測ると力が60%以上強く出ることが分かりました。一方で、手首を伸ばす力(伸展)では、握っても握らなくても差はほとんどありませんでした。このことから、手首の筋肉に問題がある人の力を正しく評価するには、「握らずに」測定した方がよいと考えられます。
【岡田隆】Isokinetic profile of the wrist flexors and extensors in young women and men
- 著 者
- Eitan Shemy, Takashi Okada, Michal Arnon, Smadar Peleg
- 掲載雑誌
- Isokinetics and Exercise Science. 2025;33(2):116-122, 2025
概要
手首の曲げ伸ばし運動における筋力(等速性の収縮)を、健康な若年男女で比較したものです。20名ずつの男女を対象に、一定の速度と範囲で測定した結果、男性は女性よりも筋力が強く、手首の曲げる力は伸ばす力よりも強いことが分かりました。また、ゆっくり伸びながら力を出す「エキセントリック収縮」の方が、縮みながら力を出す「コンセントリック収縮」よりも強いことが示されました。男女で筋力の関係性に違いが見られ、この違いは体の使い方の違いによって生じた可能性があります。
【岡田隆】中強度から高負荷の筋力・パワートレーニングに有用な器具
- 著 者
- 八角 卓克、小菅 亨、岡田 隆
- 掲載雑誌
- 臨床スポーツ医学, Vol. 41, No. 10 (2024-10), 1032-1036 2024
概要
中〜高負荷の筋力・パワートレーニングに役立つ器具を紹介し、それぞれの特徴や利点を解説しています。パワーラックやバーベル、ダンベル、ケトルベル、ヘックスバー、Qロープなどが取り上げられており、安全かつ効果的に筋力を高める手段として紹介されています。器具は目的や対象者に応じて使い分けることが大切で、スペースや予算、安全性などの要素も考慮して導入することが推奨されています。
【鈴木健介、山田真吏奈】A Study on Points of Respiratory Assist Devices Using in Pre-Hospital Care Respiratory Assist Devices in Pre-Hospital Care
- 著 者
- Kenji Fujimoto, Shinnosuke Kitano, Satoshi Harada, Kenji Narikawa, Kensuke Suzuki, Marina Yamada, Mayumi Nakazawa, Satoo Ogawa
- 掲載雑誌
- J Nippon Med Sch. 2023 May 30;90(2):173-178. 2024
概要
日本において救急現場で使用される呼吸補助器具(BVM、JR、BVM+GSV)の使用時の注意点を明らかにすることを目的とし、健康な成人20名を対象に実施されました。自発呼吸中に各器具を装着し、生体情報と呼気終末二酸化炭素(ETCO2)の変化を測定した結果、全ての器具でETCO2の上昇が見られ、特にJR使用時の上昇が顕著でした。これにより、JR使用時には特に注意が必要であることが示唆されました。
【鈴木健介】Usefulness of Self-Selected Scenarios for Simple Triage and Rapid Treatment Method Using Virtual Reality
- 著 者
- Satoshi Harada, Ryotaro Suga, Kensuke Suzuki, Shinnosuke Kitano, Kenji Fujimoto, Kenji Narikawa, Mayumi Nakazawa, Satoo Ogawa
- 掲載雑誌
- J Nippon Med Sch. 2024 Mar 9;91(1):99-107. 2024
概要
災害時のトリアージ手法「START」の教育において、VR(仮想現実)を活用する効果を検証しました。救急救命士の学生70人をVR体験と講義に分け、実技と筆記で学習効果を比較した結果、VRを使った学生は実技で有意に高得点を取り、学習効果が高いと確認されました。VRはSTART教育に有効で、講義やシミュレーションとの併用が理想的であることがわかりました。
【鈴木健介】Agonal breathing upon hospital arrival as a prognostic factor in patients experiencing out-of-hospital cardiac arrest
- 著 者
- Shinnosuke Kitano, Kensuke Suzuki, Chie Tanaka, Masamune Kuno, Nobuya Kitamura, Hideo Yasunaga, Shotaro Aso, Takashi Tagami
- 掲載雑誌
- Resusc Plus. 2024 May 13;18:100660. 2024
概要
心停止後に現れる「死戦期呼吸(agonal breathing)」が、病院到着時に確認された場合の予後との関係を調べました。関東地方の多施設共同研究において、救急搬送された患者6,457人を分析したところ、死戦期呼吸があった患者の方が1か月後の神経学的予後が良好である可能性が示されました。このことから、病院到着時の死戦期呼吸は、院外心停止患者の予後を予測する有用な指標となり得ると考えられます。
【鈴木健介】Effect of cardiopulmonary resuscitation training for layperson bystanders on outcomes of out-of-hospital cardiac arrest: A prospective multicenter observational study
- 著 者
- Ryusei Tabata, Takashi Tagami, Kensuke Suzuki, Tomohito Amano, Haruka Takahashi, Hiroto Numata, Shinnosuke Kitano, Nobuya Kitamura, Satoo Ogawa
- 掲載雑誌
- Resuscitation. 2024 Aug;201:110314. 2024
概要
一般市民による心肺蘇生(CPR)訓練が、院外心停止(OHCA)患者の救命率に与える影響を調べました。日本の42施設で実施された多施設前向き観察研究において、969人のOHCA患者を分析した結果、CPR訓練を受けた人が行った蘇生では、自己心拍再開(ROSC)率が有意に高くなりました。これにより、非医療従事者へのCPR訓練が救命率向上に効果的である可能性が示されました。
【鈴木健介】Early do-not-attempt resuscitation orders and neurological outcomes in older out-of-hospital cardiac arrest patient: A multicenter observational study
- 著 者
- Megumi Kohri, Takashi Tagami, Kensuke Suzuki, Shinnosuke Kitano, Tomohito Amano, Suzuka Hagiwara, Nobuya Kitamura, Satoo Ogawa
- 掲載雑誌
- Acute Med Surg. 2024 Oct 14;11(1):e70008. 2024
概要
65歳以上の院外心停止(OHCA)患者に対して、入院後6時間以内にDNAR(蘇生措置拒否)指示が出された場合の神経学的予後への影響を調べました。日本の多施設研究に基づき685人を分析した結果、早期にDNAR指示を受けた患者は、治療介入が少なく、30日後の神経学的予後も有意に悪いことがわかりました。DNAR指示のタイミングが予後に影響する可能性が示唆されました。
【鈴木健介】Medical validity and layperson interpretation of emergency visit recommendations by the GPT model: A cross-sectional study
- 著 者
- Chie Tanaka, Takahiro Kinoshita, Yohei Okada, Kasumi Satoh, Yosuke Homma, Kensuke Suzuki, Shoji Yokobori, Jun Oda, Yasuhiro Otomo, Takashi Tagami
- 掲載雑誌
- Acute Med Surg. 2025 Mar 12;12(1):e70042. 2024
概要
一般市民が緊急受診の必要性を判断する際に、GPTモデルがどれほど有用か、またその出力を市民がどう解釈するかを検討しました。臨床シナリオをGPTに入力し、医師と市民が評価した結果、GPTは高い精度で緊急度を判断できましたが、市民の多くがその出力を正しく解釈できませんでした。AIの活用には、精度だけでなく、分かりやすい伝え方の工夫も重要であることが示されました。
【鈴木健介】The impact of dispatcher-assisted CPR and prior bystander CPR training on neurologic outcomes in out-of-hospital cardiac arrest: a multicenter study
- 著 者
- Haruka Takahashi, Takashi Tagami, Kensuke Suzuki, Megumi Kohri, Ryusei Tabata, Suzuka Hagiwara, Shinnosuke Kitano, Nobuya Kitamura, Yusuke Homma, Shotaro Aso, Hideo Yasunaga, Satoo Ogawa
- 掲載雑誌
- Resuscitation. 2025 Apr 17:110617. 2024
概要
院外心停止(OHCA)において、一般市民による通報者支援心肺蘇生(DA-CPR)の効果を、CPR訓練の有無に注目して検討しました。2,772人を分析した結果、CPR訓練を受けた人による自発的な蘇生が最も良好な神経学的予後を示し、次いで訓練者によるDA-CPR、未訓練者によるDA-CPRと続きました。DA-CPRは特に訓練を受けていない人に有効であり、地域でのCPR訓練とDA-CPR体制の重要性が示されました。
【鈴木健介】Effectiveness of the Abdominal Thrust Maneuver for Airway Obstruction Removal: Analysis of Data from the National Emergency Medical Services Information System.
- 著 者
- Ryotaro Suga, Yutaka Igarashi, Shinnosuke Kitano, Kensuke Suzuki, Shoji Yokobori, Satoo Ogawa, Hiroyuki Yokota
- 掲載雑誌
- Journal of Nippon Medical School = Nippon Ika Daigaku zasshi 91(3) 270-276 2024
概要
喉に異物が詰まった際の応急処置である腹部突き上げ法(いわゆる「ハイムリック法」)の効果を、アメリカの大規模救急データベースを使って検証したものです。約2,000件の症例を分析した結果、この方法で異物が取り除けた成功率は46.6%でした。特に15歳以下の子どもでは成功率が60.2%と高く、意識障害や心停止の割合も低い傾向がありました。今回の結果は、腹部突き上げ法の限界と課題を示しており、今後はより効果的な救命手技の検討が必要です。
【鈴木健介】Evaluation of fatigue, load and the quality of chest compressions by bystanders in hot and humid environments
- 著 者
- Haruka Takahashi, Kensuke Suzuki, Yohei Okada, Satoshi Harada, Hiroyuki Yokota, Marcus Eng Hock Ong, Satoo Ogawa
- 掲載雑誌
- Resuscitation Plus 20 100818-100818 Dec, 2024
概要
暑く湿度の高い環境で心肺蘇生(CPR)を行った際の体への負担と胸骨圧迫の質について調べました。健康な学生が約10分間CPRを行った結果、胸骨圧迫の深さには暑さによる大きな違いはありませんでした。しかし、暑い環境では心拍数や疲労感、血中乳酸が増加しており、体への負担は高まることが分かりました。猛暑時のCPR実施にはさらなる対策や研究が求められます。
【鈴木健介】救急救命士養成課程学生における「もしバナゲーム」を用いたアドバンス・ケア・プランニング(ACP)教育の有用性
- 著 者
- 中澤 真弓, 成川 憲司, 鈴木 健介, 小川 理郎
- 掲載雑誌
- 日本体育大学紀要 53 1043-1050 2024年8月 2024
概要
救急救命士を目指す学生に「もしバナゲーム」を使ったアドバンス・ケア・プランニング(ACP)の教育を行い、その意識の変化を調べました。74名の学生を対象に講義と演習を実施した結果、自分や家族の最期について話し合いたいという考えや、その重要性が教育後に大きく高まりました。ACP教育は、命や生き方について考える良いきっかけとなり、有効であることが示されました。
【鈴木健介】病院前救護における体温の評価とその判断における留意点に関する検討
- 著 者
- 成田 寛之, 原田 諭, 高橋 治花, 郡 愛, 鈴木 健介, 小川 理郎
- 掲載雑誌
- 救急救命士ジャーナル 4(4) 186-192 2024年12月 2024
概要
救急現場で直接測れない「深部体温」を、どの体の場所で測れば正確に近い値が得られるかを調べました。健康な男性31人を対象に、暑い環境で安静時と運動後に体温を比較したところ、わきの下で測った体温(腋窩温)が最も深部体温に近い結果となりました。つまり、救急現場では、わきの下での体温測定がもっとも信頼できる方法の一つであると考えられます。
【鈴木健介】高齢者施設において急変時心肺蘇生を望まない入所者の対応に関する課題~看取り介護加算の視点から~
- 著 者
- 藤野 丈貴, 横田 裕行, 鈴木 健介
- 掲載雑誌
- 日本在宅救急医学会誌 7(2) 15-23 2024年3月 2024
概要
高齢者施設での「看取り介護加算」の実態を調べました。神奈川県相模原市の施設を対象にアンケートを行ったところ、加算を受けている施設は事前に利用者の意思確認などの体制が整っていましたが、急変時には多くの施設が救急車を呼んでおり、施設内での看取りが十分に行われていない実態が明らかになりました。加算制度の本来の目的と現場の対応にギャップがあることが課題です。
【渡邉学】Associations between whole-body reaction time, maximum jump height, and skeletal muscle mass when reaction time and jump height are investigated as a complex
- 著 者
- Manabu Watanabe, Koji Watarai, Munenori Katoh
- 掲載雑誌
- J Phys Ther Sci. 2024 Sep;36(9):542-545 2024
概要
全身反応時間と最大ジャンプ高が、クローズドスキル(単純動作)およびオープンスキル(複合動作)の運動能力と骨格筋量とどのように関連するかを調査しました。54名の健康な成人を対象に、光刺激に対する反応時間とジャンプ高を単独(単純条件)および同時(複合条件)に測定しました。結果、反応時間は両条件間で相関がなく、ジャンプ高には有意な相関が見られました。また、骨格筋量はジャンプ高と有意に関連しましたが、反応時間とは関連しませんでした。これにより、単純条件と複合条件での反応時間は異なる運動特性であり、クローズドスキルの訓練だけではオープンスキルや認知機能の向上には不十分である可能性が示唆されました。
【松田康宏】Quantitative Evaluation of Manipulative Therapy Effects by Tissue Blood Flow and Muscle Stiffness Measurements
- 著 者
- Rin Hirasawa, Mikie Nakabayashi, Yasuhiro Matsuda, Yumie Ono
- 掲載雑誌
- Advanced Biomedical Engineering. 2024, 13: 66–72, 2024
概要
医療現場やスポーツコンディショニングなどで広く用いられている、筋肉を揉みほぐす手技療法が筋血流および筋硬度に与える影響について評価を行いました。若年成人36名を対象に、肩の僧帽筋に対して5分間の施術を実施し、新しい光学技術による筋血流計測と筋硬度計測をによって施術前後を比較しました。その結果、施術部位の血流は約2倍に増加し、その効果は20分間持続しました。さらに、筋硬度も有意に低下することが確認されました。これらの結果より、手技療法が血流促進および筋緊張の低下に対して客観的かつ臨床的に有効であることが示唆されました。
【松田康宏】Differential changes in blood flow and oxygen utilization in active muscles between voluntary exercise and electrical muscle stimulation in young adults
- 著 者
- Makoto Katagiri, Mikie Nakabayashi, Yasuhiro Matsuda, Yumie Ono, Masashi Ichinose
- 掲載雑誌
- Journal of Applied Physiology. 2024, 136(5), 1053-1064. 2024
概要
電気刺激によって筋肉を収縮させる場合と、自分の意思で動かす随意運動をした場合における筋血流と筋酸素の消費についてそれぞれの違いを調べました。その結果、電気刺激による筋収縮は随意運動と同等程度に血流が増加し、より多くの酸素を筋肉が取り込んで消費することがわかりました。さらに、電気刺激による筋収縮では刺激後も血流と酸素消費の高い状態が長く続く傾向がありました。電気刺激による筋収縮は筋代謝を効率的に高める手法として有効である可能性が示されました。
【松田康宏】筋の健康を光でみる-理学療法効果の定量評価への挑戦
- 著 者
- 小野弓絵, 中林実輝絵, 松田康宏
- 掲載雑誌
- 医学のあゆみ, 2024.10, Vol 291 NO4, 266-269. 2024
概要
術者の手によって施す手技療法や電気刺激などの理学療法は、血流改善や痛みの緩和、運動機能の回復を目的に広く使われていますが、その効果を現場で客観的に測る手法は限られています。近年、体にセンサーを当てるだけで深部の血流を測定できる拡散相関分光法が注目されており、手技療法や電気刺激による筋血流の変化を可視化できる技術として、医療AIへの応用も期待されています。
【田村暁大】Relationship Between Supporting Leg Stiffness and Trunk Kinematics of the Kicking Leg During Soccer Kicking
- 著 者
- Akihiro Tamura, Keita Shimura, Yuri Inoue
- 掲載雑誌
- J Appl Biomech. 2024 Sep 18;40(6):512-517, 2024
概要
サッカーのキック動作において軸足(支持脚)の剛性が体幹の動きやキックのパフォーマンスに影響を与えるかを検討したものです。22名の男子大学サッカー選手を対象に3次元動作解析を行った結果、支持脚の剛性が高いほど体幹の回旋角度は小さいことが分かりました。一方で、キック時のスイングスピードとは有意な関連は見られなかったことから、剛性とパフォーマンスの関係にはさらなる研究が必要です。