体育研究所 2023年度 海外で活躍する日本人研究者
本コラムでは、これからの体育・スポーツ科学の未来を担う若手研究者、大学院生や学部学生に大きな夢を描いてもらうきっかけになる事を願って、海外で活躍する日本人研究者を紹介します。その第一弾として、日本の体育系大学を卒業後、アメリカに渡り、体育・スポーツ科学研究の第一線で活躍するテキサス大学オースチン校の田中弘文先生にお話を伺いました。私の研究分野は田中先生と近しいこともあり、アメリカスポーツ医学会などでお話しするところから交流が始まりましたが、それまでは論文でのみ知る著名な研究者の一人であり、私自身も田中先生が公表された数多くの論文から大いに刺激を受けた一人です。
田中先生は日本の体育系大学を卒業された後、アメリカのボール州立大学で修士号、テネシー大学で博士号を取得され、現在はテキサス大学オースチン校の教授としてご活躍されています。田中先生は、1990年代後半からCirculationを始めとする循環系雑誌のトップジャーナルに幾つもの論文を公表され、身体活動と心血管疾患予防研究のパイオニアとして今も世界の第一線を走られています。現在は、地域社会における動脈硬化リスク研究やアフリカ系アメリカ人の心血管リスク解明を目指したジャクソン心臓研究など数多くの研究プロジェクトに従事されています。
田中先生は、上記の通り、大学院時代からアメリカで研究をされていますが、大学入学当初はご自身が行われていたサッカーで学生日本一になり、高校の保健体育教員を目指していたということでした。学年が上がるにつれて、「どうしたら競技力が向上するのか?」と言う疑問から国内誌のみならず国際誌も読むようになり、スポーツパフォーマンスの世界的権威であったボール州立大学のCostill博士の研究に興味を持ったことがきっかけで渡米を決断されたとのことでした。渡米当初は大学院での授業、研究活動、さらには日常生活などでも大変ご苦労されたとのことでしたが、長年アメリカの研究機関でprincipal investigator(研究室の主宰者)としてご活躍されています。
アメリカの研究者は常に研究成果が求められます。論文の公表はもちろんですが、 National Institutes of Health(NIH: 国立衛生研究所)の研究グラント(日本で言う科研費のようなもの)を始めとする外部資金の獲得が、研究の継続、ご自身の収入、さらにはフルプロフェッサー(任期のない教授職)での採用に大きく関係してきます。したがって、NIHを始めとする外部資金を獲得出来なければ任期終了やフルプロフェッサーの道が断たれると言った、かなりシビアな環境で日々研究に向き合っていることになります。日本とアメリカを単純に比較することは出来ませんが、われわれも常に緊張感を持って研究活動を進めて行かなければなりません。
一昔前とは違い、野球やサッカーに代表される多くのアスリートが海外で活躍しています。田中先生は、日本の若手研究者ももっと積極的に海外出てほしいとの願望をお持ちでした。海外に行くことが全てではありませんが、日本とは異なる生活環境、文化や言語の違いを経験することはこれからの若手研究者にとっては重要な選択の一つになると言えます。
岡本 孝信