体育研究所 2020年度 女性の健康支援教材:「はじめての月経コンディショニング学」(岡本美和子)
はじめに
“女性のこころとからだは一生を通じて、女性ホルモンから大きな影響を受け続けます”
スポーツ庁委託事業「学校における子供の体力向上課題対策プロジェクト」(平成28~29年度)が、中高生女子を対象に実施した月経関連のアンケート調査によると、全体の約80%が「月経に関して勉強や運動に影響するほどの体の不調がある」と回答していることがわかりました。また、「不調を感じても病院に行かない」と回答した女子が94%でした。矢野ら(2017)の大学生を対象にした先行研究によると、月経に関連した何らかの不快症状が全体の約90%にみられ、セルフケア行動では「薬を飲む」「横になる」「がまんする」がほとんどで、病院受診はごくわずかでした。
女性アスリートはどうでしょう。能瀬ら(2014)による女性アスリートを対象にした調査によると、約26%に月経困難症(月経痛)が認められ大多数が自身で鎮痛薬対応しており、「月経期はコンディションが悪い」と回答していた女性が37%でした。また70%以上に月経前症候群が認められ、特に体重増加や精神不安定等が顕著な症状として上位を占め、月経周期とコンディションの変化への対策を希望する女性アスリートが多いこともわかりました。
本プロジェクトの目的
本プロジェクトの目的は、女性特有の生理現象である月経周期に着目し、性ホルモン濃度のゆらぎが女性のこころとからだのコンディションに与える影響について検討するとともに、エビデンスに基づく適切で的確な月経教育に関する情報を発信できる教材の開発を行うことです。
月経にまつわる体の不調を「誰にでもあること」「病気ではないからがまんするもの」といった誤った認識のもと、女性の多くが不調や心配を長期間一人で抱え込んでいる現状があります。その結果、学校を休んでしまう、スポーツを楽しめない、最高のパフォーマンスができないなど負のスパイラル状況に陥ってしまうのは非常に残念なことです。月経に関する正しい知識と対処方法を身に付けることは、全ての女性にとって「その日をベストコンディションで迎えられる」一歩になると本プロジェクトでは考えています。
「はじめての月経コンディショニング学」のコンセプト
女性特有の健康課題を基盤にした女性の健康支援の教材として本小冊子を手にした読者が、月経や性ホルモンに関する正しい知識を修得することで、こころとからだのコンディションへの理解と適切な対応を促すなど月経教育への一助になることです。対象者は一次的には本学の女子および男子学生、教職員、部活動やサークル等の指導者ですが、エビデンスに基づいた本教材が本学関係者に留まることなく多くの保健体育教員、女性アスリートや指導者へと本学が発信元となることで、読者層が拡がることも想定しています。
今後の取り組み
月経周期に伴うコンディションの変化、健康状態の変化には個人差や個人内における変動が大きいことが知られています。個人差等の解析を進めながら、コンディションに影響する要因を抽出し科学的に検討していくことです。さらに本研究で得られた知見を取り入れた教材および教育プログラムを開発することです。
引用文献
- 矢野由紀子, 土田満:女子学生の月経からみた養護教諭が行う健康相談の必要性, 瀬木学園紀要11,2-8,2017.
- 能瀬さやか,土肥美智子,他:女性トップアスリートの低用量ピル使用率とこれからの課題, 日臨スポーツ医会誌, 22,122-127, 2014.