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女性アスリートのための栄養講座 健康的に減量したい女性アスリートが気をつけたい3つのこと

いつのころからか、多くの日本女性は「モデル体型」を理想とするようになりました。競技の世界でも、「体重を軽くすれば、よりパフォーマンスが上がる」「より美しく」と考えて、減量を目指す女性アスリートは少なくありません。でも、本当にそれでいいのでしょうか? 公認スポーツ栄養士でもある、日本体育大学児童スポーツ教育学部助教・安達瑞保先生に伺いました。

日本体育大学児童スポーツ教育学部助教 安達瑞保先生

共立女子大学大学院家政学研究科食物学専攻修了、修士(家政学)。日本スポーツ栄養学会、日本体力医学会、アメリカスポーツ医学会等に所属。2015年より日本オリンピック委員会強化スタッフ(卓球)等も務める。アスリートのコンディショニングに不可欠な栄養管理についての講演も行っている。

「無理なく普通の食事をしながら」が減量成功のカギ

ダイエットや減量を考えたとき、もっともたいせつなのは、「目指した体重をいかに維持していけるか」です。無理に体重を減らしても、維持できずにリバウンドしてしまったら、意味がありません。

「減量を成功させるためには、無理なくふつうの食事をしながら、体重をコントロールできることが必要です」と、安達先生は話します。

そのために気を付けたいのは、以下の3点です。

  1. ①まず、本当に減量が必要なのか?を考える
  2. ②いつまでに、どれくらい?という目標設定がたいせつ
  3. ③目標達成後、どう維持していくのか

この3つのステップで進めていけば、健康な体を作りながら、減量することができます。次から、一つ一つ見ていきましょう。

STEP 01 本当に減量が必要かどうかを見極める

例えば、「競技中にケガをして、一定期間練習を休まなくてはならなくなった結果、体重が増えた」というような場合は、減量すべき事例といえます。しかし、明確な理由がなく減量を考えているなら、要注意です。

単に「やせたら速く走れるようになりそう」とか、「ほかの選手に比べて体重が重いから落としたい」という理由であれば、減量する必要があるかどうか、いま一度考えなくてはなりません。

思春期に第二次性徴が始まると、女性の体は女性ホルモンの影響を受けるようになります。胸がふくらむといった体つきの変化だけでなく、月経が始まって妊娠・出産ができる体に変化するのです。

月経が起こるしくみ

月経は女性ホルモンの働きでコントロールされていますが、これには「脂肪」が関わっています。「脂肪」は血液から酸素と栄養をもらって、生理活性物質を分泌している細胞です。

減量によって脂肪が少なくなりすぎると、女性ホルモンの分泌が減り、月経が止まってしまうことも。その状態が続けば、将来子どもを産むことができなくなる可能性もあります。

もちろん、妊娠も出産も女性の人生の選択肢の一つであり、必ずしなくてはならないものではありません。でも、競技生活が終わったあとも、人生は続いていきます。たとえ今は「子どもは欲しくない』と思っていたとしても、気が変わることもあるかもしれません。子どもを産みたいと思ったときに、その希望を叶えられる可能性を、将来の自分のために残しておきたいですね。

(女性アスリートの教科書P39より)

STEP 02 具体的で現実的な目標を設定する

それでも減量が必要という場合には、いつまでに、どれくらい体重を減らせるか、目標を設定します。

「なんとなくやせたいという気持ちだけで目標がないまま進めると、結果的に減量に失敗する可能性が高くなります。いきなり、1週間に5kgやせたいと思っても、無謀ですよね。減量を成功させるためには、現実的な目標設定が欠かせません」。

そのためには、「理想的で健康的な体の中身を作りながら、減らせる体脂肪はどれくらいか?」を考える必要があります。

とはいえ、実際のエネルギー摂取量や、運動によるエネルギー消費量を正しく計測することは、専門家にもむずかしいもの。成人であればBMIが基準になります。18.5未満であれば、やせすぎです。未成年であれば標準体重の85%未満かどうかを目安にするといいでしょう。

BMIの計算方法
BMI=体重(kg)÷身長(m)÷身長(m)

BMIと適正体重 – 高精度計算サイト

https://keisan.casio.jp/exec/system/1161228732

「目標について、 『1カ月に○kgずつ、○カ月で目標を達成する』などと、アスリート自身が他の人に説明できるようにしましょう。それによって、指導者との意識の共有ができるとベストです」。

アスリート本人、特に未成年のアスリートにとっては、理想的な減量を自分だけで行なうことはむずかしいもの。指導者や保護者と協力して、と二人三脚で取り組めるといいですね。

STEP 03 維持に取り組む

目標体重まで減量できたら、今度はそれをどう維持していくかがたいせつになります。
このときも、極端な食事制限や食事方法はNGです。絶食、極端な糖質オフ、りんごしか食べないなど、特定の食品しか食べないダイエット、1日1食しか食べないといった方法では、いずれどこかに無理が生じて長続きしません。

太った原因となる生活習慣を改善せずに一時的にやせたとしても、日常生活に戻ったら体重が増えてしまいます。体重を維持するには、食生活やトレーニング、生活習慣全般を見直す必要があるでしょう。

「強くなりたいとか、速くなりたいとか、自分の競技パフォーマンスについて真剣に考える選手ほど、極端な方法で体重を減らしたいと考えてしまいがちです。自分に厳しいことを課したほうが、『頑張った!』という気持ちになれるのかもしれません。
でも、自分にむやみに厳しくするのではなく、目標を設定して、それを達成するために、一つ一つていねいに課題をクリアしていくことで、自信を持ってほしいです」

10代のアスリートは指導者、保護者と一緒に取り組んで

10代の成長期には、特に注意が必要です。身長や体重が急激に増える時期があり、その時期に体重を減らしたり、減らした体重を維持するのはむずかしいのです。その結果、無理な減量を重ねた末に摂食障害になってしまうアスリートもいます。

「成長期には、身長が伸び、体重が増えることで、今までできていたことができなくなり、一時的にパフォーマンスが低下したように見える時期があります。ですから、中学生と大学3年生とでは、減量の考え方を変えなくてはいけません。10代のアスリートは1人で減量に取り組まず、指導者とコミュニケーションを取りながら行なってほしいですね」

指導者は10代という体の変化が著しい時期をすでに経験していますが、アスリート本人は経験していません。指導者とともにコントロールしていくことができれば、体の変化を受け入れてうまく適応することができるでしょう。

女性の体の変化

一方で、保護者との連携もたいせつです。なぜなら、10代のアスリートの場合、食事を自分で作ることは少なく、保護者が作っていることがほとんどだからです。理想的な減量のためには、食事の内容も重要になります。

「子どもは大人のミニチュアではありません。すでに体ができあがった大人より、多くの栄養が必要です。不必要な減量は、その子の将来に関わってきます。そして、子ども時代は、栄養面だけでなく、食事に対する価値観を養っていく時期でもあります。両方の意味で、日々の食事のあり方はとてもたいせつなのです」

一般的に、食事の時間にはリラックスしたり、楽しんだりといった、プラスのイメージを持っている人が多いでしょう。でも、食事がただ減量するためだけの味気ないものになり、苦痛に感じるようになってしまうと、食事に対する期待感が低くなります。

(女性アスリートの教科書P29より)

そうなると、食事内容を自分で考える年齢になっても、「何を食べても一緒でしょ」「胃に入ればいい」と考えるようになってしまいます。安達先生も、実際にそういうアスリートを何人も目にしてきたといいます。

「食事を楽しめると、この料理をよりおいしくするためにどうすればいいだろうと考えたり、気分転換として楽しく調理することができます。人間は食べないと生きていけません。食事は毎日のことですし、生きている限りは食べるのですから、楽しいほうがいいと思うのです」

10代のアスリート本人は、自分ではそのようなことには思い至りません。

「食事を作る保護者は大変ですが、温かい目で見守りながら支えてあげてほしいと思います。そうすれば、アスリート自身がそれを感じ取って、安心して減量に取り組めるはずです」

アスリート本人と指導者、保護者がコミュニケーションを取ることで、減量をスムーズに進めていけるといいですね。

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