北京オリンピックのレスリング・グレコローマン60kg級に出場が内定している笹本睦。
2000年以来、全日本選手権で7連覇を達成。シドニー、アテネの二度のオリンピッ
クで入賞など、これまで輝かしい成績を残している。目前に迫った北京にむけて期待が高まるが、自分ではオリンピックをあまり意識していないという。
「自分はまず目の前の大会に集中するタイプ。一つひとつの競技会、試合、対戦相手に勝つことを考えます。その積み重ねがオリンピック出場という結果になる」
負けず嫌いな性格。オリンピックでも、世界選手権でも、誰かに負けたまま終わりたくはない。北京オリンピックでは、去年の世界選手権で負けているグルジアのベディナゼ選手、ルーマニアのディアコヌ選手など、これまで勝っていない選手と勝負したいという。
いま世界のグレコローマン60kg級には飛び抜けて強い選手はいない。同じ程度の実力の選手が5、6人でしのぎを削っていて、北京オリンピックでは誰が優勝してもおかしくない状況だ。
笹本が優勝するには、限られた時間にポイントを取ること、しっかりディフェンスすることが課題になる。そのため、毎日の練習にはさまざまな工夫を取り入れている。
「日体大では、いろいろ自分で考えた方法で練習させてくれます。今日はあれやろう、これやろうと決められるので、楽しみながら練習できる。これが厳しい練習を続けられる理由かもしれません」
レスリングを始めたのは、子供のころ父親にレスリング道場へ連れていかれたのがきっかけだ。
高校時代は、自分では強いという実感はなかったという。日体大OBの先生の勧めで日体大に進み、レスリング部に入った。まわりを見ると自分よりも強い選手ばかりだった。そこにはメキシコシティーオリンピック銀メダリストの藤本英男教授もいた。
「自分ではそこそこの成績が出せればいいやという気持ちだったんです。ところが藤本先生に出会った。藤本先生から『誰でもがんばればオリンピックに行けるんだ』という話を聞いて、『自分もがんばれば強くなれるのだな』と考えが変わりました」
もし藤本先生に出会わなければ、いまの自分はなかったと笹本は断言する。現在はALSOK(綜合警備保障)に所属しているが、練習の拠点はいまも日体大だ。
「企業、自衛隊、ほかの大学など、練習拠点の候補はありましたが、自分にとって一番強くなれる環境が日体大。それに、わからないことがあったらすぐ先生に質問することができますから」
3回目の出場となる北京大会では、今まで応援してくれた人たちが試合を見て「よくやった」といってくれるような試合をしたいという。
「僕の強みはまわりに支えてくれる人がたくさんいること。日体大レスリング部の藤本先生、日体大の同期でグレコローマン84kg級の松本慎吾、そしてたくさんの友人。その人たちがいたからこそ、これまでレスリングを続けることができた」
北京オリンピックで自分のレスリングのどんなところを見てほしいのか。そんな質問に笹本はレスリングの『面白さ』を再発見してほしいという。
「日本ではレスリングはまだまだマイナーなスポーツ。僕の試合を見て『面白いな』と、もう一回見てみたいと思ってもらえるような動きをしてみたいですね。グレコローマンは大技がかかるところが魅力なので、グラウンド(寝技の攻防)に注目してほしい。海外の競技会では、大技がかかると会場中が大喝采するんです。そんな雰囲気を楽しんでほしい」
将来のことは北京オリンピックが終わってから考えることにしている。しかし何らかの形でレスリングの普及に関わりたいという気持ちはある。
「これまでレスリングを通じて知り合った人に『この人はだめだな』という人は一人もいませんでした。そのこともレスリングを続けてきた理由のひとつです」
自分を支えてくれる人たち、素晴らしい友人たち、そして闘志を湧き立たせてくれる強敵たち。彼らとの出会いを作ってくれたのはレスリングだ。そのレスリングにいわば恩返しするために、北京にむけて笹本の挑戦は続く。
笹本 睦 (ささもと・まこと)
1977年神奈川県生まれ。向上高校-日体大-綜合警備保障。
00年シドニー五輪58kg級8位、04年アテネ五輪60㎏級5位。全日本選手権は現在8連覇中。 3大会連続での五輪出場となる今回は、アテネの雪辱を晴らす。163cm。30歳。