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女性を対象とした研究はなぜ必要なのか?

 女性の健康とスポーツに関する研究プロジェクトでは、主に女性を対象とした研究を推進しています。今回のコラムでは、女性を対象とする意義について、書いてみたいと思います。男性と女性の違いを考える場合には、「性差」という言葉を使います。これは、英語だと“Gender difference”と“Sex difference”の2つの表現があります。“Gender difference”は、社会的に構築される性差を示し、社会的・文化的に形成された役割、行動、態度などにしたがって、自己認識や行動を選択することによって形成されます。一方、“Sex difference”は、主に性染色体、ホルモン、遺伝子などの生物学的要因によって決定されます。本プロジェクトでは、後者の“Sex difference”を軸として研究を進めています。

 国際的な総合科学ジャーナルであるNatureでは,2022年より研究デザインにおいて性別やジェンダーをどのように考慮したか、しなかった場合はその理由について記載することが義務付けられました(Nature 605, 2022)。このような動きがあった背景として、アメリカにおいて1997〜2001年に10点の処方薬が使用中止となり、そのうちの8点は、男性よりも女性に重い副作用が出ると報告されました。差異が見過ごされた原因のひとつはおそらく、臨床試験での性差分析が不十分あるいは不適切だったことにあるといわれています。現在、医学分野では、“Sex difference”の概念に基づいた「性差医療」という取り組みが進められています。

 さて、スポーツ科学分野ではどうでしょうか?筋力や持久力向上のためのトレーニング、脂肪燃焼を目的とした運動、アスリートのコンディショニング…。これまでスポーツ現場において実施されてきたトレーニングやコンディショニングの方法は、男性を対象として得られたデータを基にエビデンスが構築されており、女性の身体的特性はほとんど考慮されていません。しかし、男女で同じ運動をした場合の生理反応には様々な違いがあることが報告されています。たとえば、同じ強度・時間の自転車運動を行った場合、男性と女性で利用されるエネルギー基質の割合に違いが生じます。男性は糖質、女性は脂質利用が優位となります。さらに、女性の場合には月経周期による影響も受けます(図1)。こう考えると、競技種目によっては食事内容も性差や月経周期を考慮する必要があるかもしれません。しかし、それについて明確な答えを出すためにはさらなる研究が必要です。

図1.性差および月経周期が持久性運動時のグルコース代謝に与える影響
図1.性差および月経周期が持久性運動時のグルコース代謝に与える影響

 本プロジェクトでは、「女性が健康を維持しながら安全にスポーツを楽しめる環境を整える」をミッションとし、効率的なトレーニング法の開発や女性特有の健康課題の解決に向けて、今後も女性を対象とした研究に取り組んでまいります。

 (須永 美歌子)

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