再生医療:PRP(自己多血小板血漿注入療法)

再生医療:PRP(自己多血小板血漿注入療法)

PRP(Plate-Rich Plasma)治療担当医師・整形外科 清水勇樹
※当院は、「再生医療等の安全性の確保等に関する法律」において求められる「再生医療等提供計画」に関する届出を関東信越厚生局に提出・受理されております(第三種 計画番号:PC3190199/第二種 計画番号:PB3200067)。 これにより第二種・細胞培養加工物(PRP)の各関節内への投与、ならびに第三種・細胞培養加工物(PRP)の筋肉・腱・靭帯への投与が可能になっております。

PRP療法について

PRP療法とは、患者さん自身の血小板を利用した自己治癒力を高める、再生医療の一種で、スポーツ医学分野において欧米では10年以上の実績があり、最近ではトップアスリート(ヤンキース・田中将大選手やエンゼルス・大谷翔平選手など)が、肘内側靱帯損傷にPRP療法を行い話題となりました。この詳細は、血小板から組織修復を促進する成長因子が供給され、損傷組織の修復が促進されるという自己治癒力をサポートするメカニズムを利用したものです。

我々のPRP療法の経験

我々は、PRP療法を日本でもいち早く取り入れ、2010年にJリーガーの難治性膝蓋腱炎に初めて施行し、劇的な回復を経験して以来、スポーツ選手だけでなく、上腕骨外上顆炎(テニス肘)や変形性関節症に悩む患者さんに対し、数多くのPRP療法を実施し、症状の改善や治癒の促進が進む症例を経験して参りました。(PRP治療歴参照)
【PRP治療歴】
2010~2013年 産業医科大学病院スポーツ関節鏡班 産業医科大学大学院
▶Jリーガー初PRP注射実施 年間50~100例
2014~2015年 福岡スポーツクリニック堺整形外科
▶年間約100例
2016年 産業医科大学若松病院
▶年間約20-30例
2017年~AR-Ex尾山台整形外科東京関節鏡センター
▶年間約10-20例
2019年12月ISAKOS認定教育研修quironsalud病院(バルセロナ・スペイン)
▶PRP治療と手術の研修修了証取得
2020年2月~ 日本体育大学クリニックPRP療法(第三種:関節外)開始
2020年8月~ 日本体育大学クリニックPRP療法(第二種:関節内)開始
PRP外来手術研修修了証byDr.Cugat
PRP外来手術研修修了証byDr.Cugat

当院のPRP療法の強みと病態に応じたPRP療法の工夫

近年ではPRP療法についての研究が進み、PRP療法といっても、調整方法、投与量、投与回数、他の治療との併用などの様々な報告があり、医療施設毎にその方法が異なります。 当院では、2019年に欧州PRP療法の権威であるDr.Cugatが在籍されるスペイン・バルセロナのquironsalud病院でのPRP療法外来手術研修を踏まえ、これまでの経験と合わせて、白血球の多いPRPと白血球の少ないPRPの使い分けや量、投与回数、他治療との併用など患者さんの病態に合った適切なPRP療法を実施致します。もちろん、PPR療法の効果については、損傷の程度や血小板作用など個人差もあり、確実に効果があるとは一概には言えませんが、抗凝固剤など他の薬剤も使用せず、患者さん自身の血小板を利用した自己治癒力を高める治療であるのため、安全な治療です。また、超音波診断装置を用いて超音波ガイド下で確実に損傷部位にPRPを投与します。

コスパの良いPRP療法 手術に至る前の最適な選択肢の一つとして

PRP療法は保険診療の適用外のため自費診療となります。リーズナブル「プチプラPRP」として、料金も比較的低価格に設定しました。 そう言ってしまうと、安かろう悪かろうと感じる方もいらっしゃるかもしれませんが、当院のPRP療法は、無菌操作で安全かつ簡便に再現性高く、組織修復有意な環境に作用するPRPを作成できる高度管理医療機器として承認されたPRP作成キットを使用しています。 また、臨床試験でも変形性膝関節症については、8本以上のエビデンスレベルの高いLevel1 RCT(ランダム化比較試験)が権威のあるスポーツ医学雑誌(AJSM, Arthroscopy, KSSTA)に投稿されており、どれも優秀な成績を収めていることから、安定的な作成方法といえると思います。つまり、コスパのよい「プチプラPRP」と言っても過言ではないと思います。 肉離れ、腱・靭帯損傷からのスポーツへの早期治癒・復帰目的や難治性スポーツ障害・変形性関節症などの手術に至る前の最適な治療の選択肢の一つとして、ご検討下さい。

遠心前の血液と分離した後の血液を示した図(赤枠内がPRPとして採取される部分

組織の分解や炎症亢進に関連性の高い白血球(特に好中球)並びに赤血球を極力除外し、血小板と血漿中に含まれる組織再生優位に働く成分を多く含む部分を回収します。血小板を大量に回収するため過度に濃縮してしまうと組織治癒に望ましくない赤血球や大量の白血球(好中球)の混入を許してしまいます。
遠心前の血液と分離した後の血液を示した図

治療の流れ

①診察(保険診療)

②PRP療法当日の流れ(保険適応外自由診療)

治療後の注意点

費用

PRP療法は保険外診療(自由診療)となります。
当院では以下の通りに価格を設定しております。
疾患・症状により複数回の治療が望ましい場合もあります。詳細は診察時に担当医にお問い合わせください。
▶PRP三種:関節外注射(靱帯、腱、筋肉など)1回あたり: 20,000円(税別)
▶PRP二種:関節内注射:30,000円(税別)
※先進医療や高額医療の補助の対象とはなりません。
10年以上PRP療法を実施し、多くの患者さんでその高い効果・実力を経験してきました。現在は施設によっては10万円以上の高価な治療になってしまった、効果が高く優れた治療であるPRP療法を「プチプラPRP」として、誰でも手が届く値段で治療を提供したいという思いから、上記値段と致しました。
※プチプラ=、「プチプライス」の略。安く手頃な良い商品として肯定的ニュアンスで用いられる。

治療対象の疾患と作用・効果 海外文献より

変形性膝関節症
変形性膝関節症は関節軟骨の老化、肥満や素因(遺伝子)、また骨折、靱帯や半月板損傷などの外傷、化膿性関節炎などを主因として発症します。 例えば、加齢によるものでは、関節軟骨が年齢とともに弾力性を失い、使い過ぎによりすり減り、関節が変形していきますが、同時に分子レベルでも組織修復のバランスの破綻が生じることで疼痛やさらなる関節の変形が促進される負のサイクルが発生します。 白血球少量(Leukocyte-Reduced) PRPは組織の分解有意に偏ってしまった関節に対して、組織修復的に働く成分を注入し、バランスをとり、組織修復的な状態に移行させることを目的としており、重症度に応じ治療回数を決定します。 患者様の実感としては疼痛低減やこわばりの改善、現状以上の変形の進行の抑止、場合によっては組織の回復等が見られます。
作用について、以下の研究データによれば、変形性膝関節症の重症度が中等度の患者に対して、1週間おきに3回PRPを投与。膝関節の機能スコア:WOMAC(膝の痛みやこわばり等)が47点から10点(100点満点で0に近いほど正常な膝の状態に近い)に改善が示されています。
治療対象の疾患と作用・効果
青色のACPと示されている方が、PRP治療を受けている患者のデータであり、灰色のPlaceboと示されている方が、生理食塩水(コントロール:効果の比較のために使う治療効果の無い偽薬)です。
(Smith et al. 2016)
▶スポーツ関連疾患(外傷・変性)
組織自体が持つ再生能力を超えて、組織への繰り返しの力学的な負荷が積み重なると組織が"変性"してしまいなかなか治りにくい環境になってしまうことがあります。白血球少量(Leukocyte-Reduced) PRPはこれらの痛んだ組織の細胞を刺激することにより、より正常に近い環境の組織に近づけ、機能を改善することを目的としています。関節内よりも本来ある組織修復能力が高いため、治療回数は比較的少なくて済みますが、重症度により反復的な投与も必要となります。また、スポーツを行っており、捻挫や肉離れ等の症状があり、少しでも早期復帰を望む方も適応となる場合があります。
作用について、以下の研究データによれば、リハビリをしても改善の見られないジャンパー膝に対して、2回のPRP投与と3回の体外衝撃派療法の効果を比較しており、PRPの方が効果が高かったことが示されています。(VAS:痛みのスケール 10点満点の評価で10が最も強い痛みで0が痛みなし)(VISA-P:膝の腱症の重症度 100点満点で点数が高いほど良い)
スポーツ関連疾患(外傷・変性)

当院で用いる多血小板血漿(PRP)の特長 海外文献より

多血小板血漿(PRP)といっても調整方法によって得られる成分が異なり、特性が異なるといわれています。 当院で用いるPRPはPRP作成用のキットとして厚生労働省に認可された高度管理医療機器、Arthrex社製のACPダブルシリンジシステムにより精製される"白血球を極力除外したPRP "です。この種のPRPを当院が選択している理由としては以下があげられます。
①信頼性の高い先行する臨床研究がある点
権威ある整形外科雑誌にエビデンスレベル1(科学的根拠としての信頼性が最も高い)の同一または同一種類とされるPRPを用いている研究結果が複数報告されており、安全性・治療効果を確認することができる。(Crezaet.al. 2012)(Smith et al. 2016)(Sánchez et al)(Sandeep et al. 2013)(Vaquerizoet al. 2013)(Cole et al. 2016)(Lin et al 2019) (Ventranoet al. 2013)(Boesenet al. 2017)

②基礎的な研究からの効果の裏付けがある点
この種のPRPについてはヒトの細胞用いた研究や治療対象とする疾患の動物を用いた研究などから、組織再生に有効と考えられている効果が複数確認されている。

変形性関節症に関して
  • 関節のクッショニングを改善する成分(ヒアルロン酸)の合成を促進する働き(Anitua et.al 2007)
  • 軟骨の潤滑性に関連する成分を増加させ、こわばりを改善する働き(Sakata et.al. 2015)
  • 変形性関節症における軟骨の分解と疼痛を引き起こすサイクル(NF-kB)を緩和する働き(Yin et al. Med SciMonit, 2016)

スポーツ関連疾患に関して
  • 腱変性において、炎症低減、組織分解に関連する成分の抑制する作用(Yan et al. AJSM, 2017)
  • 腱変性において、変性組織のより正常な組織(コラーゲンタイプ1)への置換の促進する作用(González et al. Scientific Reports, 2015)
当院で用いる多血小板血漿(PRP)の特長 海外文献より

よくあるご質問

Q.どういった症状の場合、PRP療法が有効ですか?
変形性膝関節症についていえば、人工関節の適応とはならない程度の重症度であり、ヒアルロン酸注射を何度も受けたが改善しない方適応となると考えております。 スポーツ関連疾患(外傷・変性)についていえば、保険診療におけるリハビリを十分行ったが改善が見られない腱の変性疾患やスポーツを行っており、捻挫や肉離れ等の症状があり、少しでも早期復帰を望む方も適応となると考えております。

Q.PRP療法は保険診療における治療と比較し、どのようなメリットがありますか?
高額な治療ですので、保険診療で治療できる場合には保険診療で治療をすることをお勧めしますが、保険診療における治療で無効であり、手術しか選択の無い患者様は一度考慮してよい治療といえるかもしれません。 変形性膝関節症についていえば、関節の健康寿命を延ばせる可能性のある治療として、スポーツ関連疾患(外傷・変性)についてはスポーツへの早期復帰や手術の回避の可能性のある治療として期待されています。

Q.PRP療法はどの程度の期間で効果が実感できますか?
変形性膝関節症では先行する研究データによると治療後1-2週間程度で効果が徐々に表れ始め、2か月後程度から効果が実感されてくることが示されています。ただしこれらはあくまで平均値ですので、ばらつきはあります。また、重症度や年齢等によっても効果が左右される可能性があります。

Q.APS療法と何が違うのですか?
APS療法は一言でいうと抗炎症性の成分が濃縮されたPRPです。1回の注射で一般的なPRPと類似する作用が1年にわたり作用する可能性が示唆されていますが、キットが高額なので治療費がかなり高額となっているようです。まだデータが乏しく効果の優劣を十分に行うことは難しいのが現状です。(Kon et al. 2018) (Smith et al. 2016)