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【研究者紹介】救える命を増やすために(髙橋治花)
研究活動
2025.12.26(金)

AciviriesResearch_1保健医療学研究科 救急災害医療学専攻 博士課程 3年
髙橋 治花
Takahashi Haruka
リサーチマップ URL:https://researchmap.jp/https_research_ht05
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日体大を選んだ理由

高校時代、消防士に憧れていました。命を救う現場で働くには「救命士」の資格が必要だと知り、どの大学で学べるのかを調べたところ、日本体育大学に出会いました。オープンキャンパスで感じた先生や学生との距離の近さ、アットホームで自由な雰囲気に惹かれ、「ここしかない」と直感。ほかの大学は受験せず、日体大一本に絞って進学を決めました。



保健医療を深く学ぼうと思ったきっかけ

入学当初は「消防士になる」という明確な目標がありましたが、病院実習を通じて意識が大きく変わりました。救急救命士として搬送した後、患者さんがどんな経過をたどるのか──その “先” を知りたくなったのです。病院で治療を受け、回復して歩いて帰る姿を見たとき、「もっと長い視点で命を見つめたい」と思うようになりました。この経験が、消防士一本ではなく、医療全体を見据えた学びへの転換点となりました。




大学院まで進もうと思ったきっかけ

学部時代には、日本以外の医療はどうなっているのか興味が湧き、カンボジアの病院に1ヶ月滞在するボランティア活動に参加しました。現地の医療に触れる中で、もっと広い視野で病院前救急医療分野について学びたいという思いが芽生えました。大学院進学を決めたのは、臨床経験を積みながら自分の視野を深めたいという気持ちからです。「研究がしたい」というより、「今後の選択肢を増やしたい」という希望を込めての進学でした。時間的な猶予を得て、自分の将来と向き合うためのステップでもありました。
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取り組んでいる研究テーマとその背景

現在の研究テーマは「病院前の救急医療システム」に関するものです。中でも、「院外で心停止を起こした人に対する市民による介入効果」に注目しています。このテーマに取り組むきっかけは、大学院時代に立ち上げたネパールの農村地域での応急処置普及プロジェクトでした。現地では119番のような緊急通報システムもなく、救急車も存在せず、資格を持った救命士もいません。誤った処置が広まっている現状を目の当たりにし、ここに介入しなればと強く感じ、プロジェクトを立ち上げました。そして同時に、病院前救急医療システムを構築、改善するためには、まずは、データを集め、現状を可視化し、根拠を示し、現地に持ち込めるようなエビデンスをつくる──その第一歩として、心停止という普遍的で評価しやすい症例を選びました。誰にでも起こりうる心停止に対して、市民による心肺蘇生を広めることができれば、救える命を増やせる。研究はそこから始まっています。




自分の研究が社会にどう影響を与えるのか

この研究の最終的なゴールは、低・中所得国の病院前救急医療体制を改善することです。日本の救急システムは確立されていますが、制度が硬直的で政策への反映に時間がかかるという課題もあります。一方、シンガポールではエビデンスを政策に生かすサイクルがすでに機能しており、自身の研究成果が実際の制度改善に結びついた経験もあります。「研究が政策に生きる」──この実感が、今の原動力です。日本やアジア諸国で得た知見をもとに、誰もが等しく救われる社会を実現する。そのためのデータと仕組みづくりに挑戦しています。
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海外で活躍するための、語学の習得について

実は、大学1年生のときのTOEICは300点台。英語が大の苦手でした。しかし、「やりたいことを実現するには、伝える力が必要」と痛感し、英会話スクールに通い、失敗を恐れずに話すことから始めました。「完璧な文法よりも気持ちを伝えることが大事」。シンガポールで学んだ教授からも「語学力より、何を成し遂げたいかが大切だ」と励まされました。現在も、ミーティングを録音して聞き返したり、議論内容をまとめて教授にメールで確認したりと、試行錯誤を重ねています。語学の上達は一歩ずつ。必要に迫られて挑戦し続けることで、今の自分があります。



大学院での生活で印象に残っているエピソード

シンガポールでの研究留学も終盤に差しかかった頃、指導教員の鈴木教授が後輩とともにシンガポールを訪れてくださいました。留学のきっかけを与えてくださったのも鈴木教授であり、現地での研究環境や日々の活動を直接見ていただけたことが、とても嬉しかったです。海外での経験を通して得た学びや成長を、先生と共有できた貴重な時間として、心に残っています。
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保健医療を目指す方へのメッセージ

「挑戦」。この一言に尽きます。完璧でなくても、まず一歩を踏み出す勇気が大切です。海外での研究も、語学の壁も、すべてはその一歩から始まりました。できない理由を探すのではなく、「どうしたらできるか」を考えることがとても大切なことだと思っています。

指導教員によるコメント

髙橋さんの研究を見ていて感じるのは、現場で気づいた課題を、そのままにせず行動につなげていく力がとても強いということです。
ネパールで応急処置が十分に行われていない現状を知り、自分にできることは何かを考え、データを集め、仕組みづくりに挑戦してきました。その姿勢は、救急医療に携わる者として非常に頼もしく感じています。
救急医療の世界では、「思い」だけでも、「知識」だけでも、人を救うことはできません。
現場の課題を正しく理解し、エビデンスに基づいて改善していく力が求められます。髙橋さんは、その両方を大切にしながら研究を進めており、海外での経験も含めて着実に成長してきました。
シンガポールでの研究留学では、国や地域によって救急医療の仕組みがどれほど違うのかを肌で感じ、その中で市民による応急処置の重要性を深く学んできました。そこで得た知見はすでに研究成果として形になり、国際的にも評価されています。
誰もが助かるチャンスを持てる社会をつくることは、救急医療に関わる者にとって大きな目標です。
髙橋さんは、その実現に向けて一歩ずつ前に進んでいます。今後の活躍を楽しみにしています。
鈴木先生写真
日本体育大学 保健医療学部 救急医療学科
日本体育大学大学院 保健医療学研究科 救急災害医療学専攻
教授 鈴木 健介
リサーチマップURL:https://researchmap.jp/kensuke0920

TOPICS

一般市民による心肺蘇生の有効性を、関東 42 病院の大規模臨床研究データで検証 ~事前の救命講習受講と 119 番通報時の口頭指導で命と脳が守られる可能性が明らかに~
Takahashi H, Tagami T, Suzuki K, Kohri M, Tabata R, Hagiwara S, Kitano S, Kitamura N, Homma Y, Aso S, Yasunaga H, Ogawa S. The impact of dispatcher-assisted CPR and prior bystander CPR training on neurologic outcomes in out-of-hospital cardiac arrest: a multicenter study. Resuscitation. 2025 Jul;212:110617. doi: 10.1016/j.resuscitation.2025.110617. Epub 2025 Apr 17.
 

 救急通報から口頭指導による心肺蘇生を始めるまでの時間が短いほど、 命が助かる可能性が高まることが明らかに ― シンガポールの救急搬送データを用いた共同研究結果 ―
Takahashi H, Okada Y, Hong D, Quah D, Leong BS, Ng YY, Shahidah N, Goh GS, Yazid M, Suzuki K, Neumar RW, Ong MEH; Singapore PAROS Investigators. Association between time taken to start dispatch assisted-bystander cardiopulmonary resuscitation (DA-CPR) and outcomes for out-of-hospital cardiac arrest (OHCA). Resuscitation. 2025 Aug;213:110651. doi: 10.1016/j.resuscitation.2025.110651. Epub 2025 May 21.

 
 スマートフォンで駆けつける市民ボランティアが、命を救う力に ーシンガポール大学 Duke-NUS Medical School との共同研究ー
 Takahashi H, Ain N, Fook-Chong S, Qiao F, Shahidah N, Okada Y, Ng YY, Hong D, Leong BS, Chia MY, Mao DR, Tiah L, Mg WM, Doctor NE, Compton S, Ong ME; Singapore PAROS Investigators. Impact of smartphone activated first responders on provision of bystander CPR, bystander AED and outcomes for out-of-hospital cardiac arrest (OHCA). Resuscitation. 2025 Jul;212:110645. doi: 10.1016/j.resuscitation.2025.110645. Epub 2025 May 16.