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競技力向上のための効果的なコンディショニングに関する研究 (杉田正明先生)

はじめに

 昨年度から競技力向上を目的とし、トレーニング期や試合期におけるコンディションや運動量の可視化とパフォーマンスの評価を検討するための研究に取り組んでいます。ここでは陸上競技・長距離選手を対象とした、微量血液、唾液、尿の中に含まれる様々な生化学的指標及びVAS法による主観的指標を用いたコンディションの可視化とそれらとパフォーマンスとの関係についての取り組みの一端をご紹介したいと思います。

 コンディションとは、スポーツにおいて変動する競技的状態を構成する心身の状態、及びアスリートのパフォーマンスに影響を与える全ての要因と定義され、現在のコンディションと目標とするコンディションとの間のギャップを最小化するプロセスがコンディショニングとされています。これまでにコンディション評価は、選手自身によるセルフモニタリングとして脈拍数、体温、気分や主観的コンディション等を指標としたり、尿検査や血液検査および心拍変動(HRV)によって選手の疲労度合を把握する研究等多くの研究が行われてきました。本研究では、より簡便により精度の高い客観的な指標として用いることができる最新の指標と主観的指標を併用し実施しました。

研究概要

 長距離選手を対象に5月10日から12月27日までの計9回測定を行い、以下の項目について検討を行いました。

 微量採血によるd-ROMs(酸化ストレス)、BAP(抗酸化力)、潜在的抗酸化能(BAP/d-ROMs)、CPK、LDH、GOT、GPT、唾液中のコルチゾール、SIgA、尿中の8-OHGd、インドキシル硫酸、唾液中の細菌数(細菌カウンタ、PHCホールディングス社製)、質問紙及びVAS法による主観(排便回数、便のかたち、睡眠時間、寝つき、練習の負担度、全般的な体調、心理的ストレス、食欲、練習に対する意欲、故障の程度、その他)(図1)を測定項目としました。

 特に新しいところでは、微量採血によるd-ROMs(酸化ストレス)、BAP(抗酸化力)、潜在的抗酸化能(BAP/d-ROMs)、唾液中のコルチゾール、SIgA(免疫グロブリンA)等の項目があげられます。

 これらの項目は、本来、測定に手間がかかり大変な作業と時間を要するものばかりです。しかし、現在では測定が簡便で対象者への負担も軽く、容易に持ち運びができ、精度が高く、わずか10分程度で測定可能な装置が開発されています。容易に測定することが可能となったおかげで、競技スポーツの現場でも取り入れられやすくなりました。コンディションの指標として用いるためには、評価するに値する妥当性があること、再現性があり信頼性があることが前提となります。先行研究でその検証や有用性及び評価の仕方などを確認した上で試用を重ねて用いることとしました。

酸化ストレス、抗酸化力とコルチゾール、SIgAについて

 d-ROMsは生体内の酸化ストレス度、BAPは抗酸化力を示す指標です。d-ROMsは活性酸素・フリーラジカルを直接測定するのではなく、代謝産物のヒドロペルオキシドを捉えて酸化ストレス測定として定量化しています。BAPは、第二鉄(Fe3+)イオンを第一鉄(Fe2+) イオンへ還元することでサンプルに含まれるすべての水溶性の抗酸化物質、尿酸、アスコルビン酸、タンパク質、ビリルビンおよびポリフェノール類などの抗酸化力を総合的に示すものです。d-ROMsとBAP の比である潜在的抗酸化能(BAP/d-ROMs)は、酸化ストレス防御系を包括的に評価する指標として用いられています。これらは、イタリアで開発されたフリーラジカル解析装置FREE Carrio DUO(ウイスマー社製)を用いて測定を行いました。評価に関しては表1、2に示した通りです。

 コルチゾールは、副腎皮質から分泌されるストレスホルモンであり、代謝や免疫機構に関与し、精神的な急性ストレスに対して、増加することが報告されています。SIgAは、口腔、鼻腔、消化管などの粘膜の粘液中に存在し、粘膜局所における免疫機構を担っていて、運動ストレスにより上昇することが報告されていて、運動選手のコンディションを評価する際のストレスマーカーとして用いられています。これらは、イギリスで開発された唾液中ストレスマーカー分析装置Cube Reader(SOMA社製)(図2)で測定しました。これらは既にイタリア、イギリスのプロサッカーチームなどでコンディションチェックや体調管理の一環として用いられています。今後はこれまで測定が困難であった生化学的な指標も機器の開発によって簡便に測定が可能となっていくことが予想されます。

結果ならびに今後の課題

 上記の測定により、期間中の対象者の全体の傾向だけでなく、その変動や個人差が大きいことを確認することができました。指導者からは、選手個々人への負荷の加わり方や回復などコンデョションの変化を客観的に把握することができたとのコメントを得ることがでました。さらに、競技成績との関連性についてもある程度、検証することができました。今後は、トレーニングの強度・量の分析なども加えた検討を通して、引き続き競技力向上に役立つコンディショニング法を究明することを目指したいと考えています。
 本研究プロジェクトの詳細については、体育研究所雑誌第44巻をご覧いただければ幸いです。

参考文献

  • ・Coad S1ら(2015)Validity and reliability of a novel salivary immunoassay for individual profiling in applied sports science. Res Sports Med. 23(2):140-50.
  • ・Iorio EL(2010)The BAP test and the global assessment of oxidative stress in clinical practice. A short review Release4.1. International Observatory of Oxidative Stress.
  • ・関秦一(2009)d-ROMsテストによる酸化ストレス総合評価.生物試料分析32(4):301-306.
  • ・SOMA Bioscience (2009) SOMA Cube Reader Test Instructions and Information v1.06 IgA/Cort.
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