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ハンドグリップ運動は血圧を低下させる(岡本)

ヒトは血管とともに老いる

 “ヒトは血管とともに老いる”これは有名な内科医ウィリアム・オスラー博士(1849~1919)の言葉です。動脈は心臓から送り出された血液を私たちの身体のすみずみまで送り届けてくれます。一方、静脈は身体のすみずみまで送り届けられた血液を再び心臓に戻してくれます。加齢にもとなって動脈も静脈も硬くなりますが、中でも動脈硬化度の上昇は血圧の増加と関係しています。では、動脈が硬くなり、血圧が増加すると何が良くないのでしょうか?血圧が高いと血液を送り出す際の心臓の負担を増やしたり、硬くなった動脈を強い力で押し広げながら血液を身体のすみずみまで送り届けるため、動脈自体にも常に強い圧力が加わっていることになります。また、動脈が硬いと心臓が血液を送り出した際に発生する波が末梢の動脈に跳ね返って勢いよく心臓に戻ってきます。これも心臓への負担を増やします。心臓や血管は全身に血液を循環させるために絶え間なく動き続けている臓器であり、動脈が硬くなり、血圧が高くなると心臓や血管が常に危険にさらされることになります。

動脈硬化度や血圧を低下させるハンドグリップ運動

 動脈硬化度や血圧を低下させるにはウォーキングやジョギングのような有酸素性運動を行うことが効果的ですが、このような運動習慣を持つことはそれほど簡単なことではありません。そこで着目したのが最大随意収縮力の30%の強度で行なうハンドグリップ運動です(図1)。天候に左右されることもなく、自宅で動脈スティフネスや血圧を下げることができます。なお、ハンドグリップ運動はアメリカ心臓学会においても血圧の低下に効果的であることが認められています。

図1. ハンドグリップ運動
図1. ハンドグリップ運動

 この運動は至ってシンプルです(図2)。このたった11分の運動で動脈硬化度や血圧が低下します。今回、われわれのプロジェクトでは、ハンドグリップ運動を週に5日間、8週間続けることで、動脈硬化度と血圧が低下するかどうかを調べました。なお、これまでのハンドグリップ運動の研究では欧米人を中心に行われていましたが、この研究では、欧米人とは高血圧の病態が異なる東アジアの人々(日本人)を対象にしたこと、動脈硬化度の指標として心臓が血液を送り出した際に発生する波(駆出波)と末梢の動脈に跳ね返って勢いよく心臓に戻ってくる波(反射波)の比から動脈硬化度を検討したこと、一般的に測定される上腕動脈の血圧だけでなく、大動脈血圧を検討したことなどが今までとは違う新たな取り組みとなります。

図2. ハンドグリップの手順
図2. ハンドグリップの手順

 図3の左は動脈硬化度の変化を、右は大動脈血圧の変化を示します。動脈硬化度、大動脈血圧とも8週間のハンドグリップ運動によって低下しています。

図3. 動脈硬化度と大動脈血圧の変化
図3. 動脈硬化度と大動脈血圧の変化

 最近では、われわれの研究において、ハンドグリップ運動による動脈硬化度の低下と認知機能が関係すること、ハンドグリップ運動は頸動脈血圧を低下させ、脳血管へのダメージを減少させることなどがわかってきました。血圧が高くて気になっているがなかなか運動習慣が持てない方や血圧が高すぎて運動することが困難な方にはお薦めの運動です。

Okamoto T, Hashimoto Y, Kobayashi R. Isometric handgrip training reduces blood pressure and wave reflections in East Asian, non-medicated, middle-aged and older adults: a randomized control trial. Aging Clin Exp Res. In press.

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