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遺伝子編集技術を用いたACTN3遺伝子欠失ラット作出へむけた取り組み内容の紹介(鴻崎)

 前回のコラムでは、遺伝子編集の概要について簡単にご紹介しました。今回のコラムでは、遺伝子編集のターゲットであるACTN3遺伝子についての説明と、実際にACTN3遺伝子欠失ラットを作出するために、どのような作業を実施しているのかをご紹介します。

ACTN3遺伝子は骨格筋構造を補強するα-アクチニン3タンパク質の産生に関わる遺伝子である

 ACTN3遺伝子は、骨格筋構造を補強するタンパク質の1つであるα-アクチニン3タンパク質を作るための遺伝子です。α-アクチニン3タンパク質は、骨格筋の中でも瞬発的・爆発的な動作を実施する際に重要な役割を担う速筋を補強します。

ACTN3遺伝子多型は競技パフォーマンスや加齢に伴う筋力低下に関連する

 「遺伝子変異」という言葉にどのようなイメージを持ちますか?悪いイメージが思い浮かぶかもしれません。 確かに、遺伝子変異ががんや遺伝性疾患の原因とされることもあります。しかし一方で、必ずしも生物学的に悪い方向に繋がるわけではない遺伝子変異も存在します。ACTN3遺伝子にみられる変異もその1つです。ACTN3遺伝子には一塩基多型という遺伝子変異が存在します。一塩基多型は比較的高い頻度(1%以上)で発生します。ACTN3多型には、R/X型と呼ばれるものがあり、R型ではα-アクチニン3タンパク質が産生されますが、X型ではα-アクチニン3タンパク質が産生されません。ヒトではRR、RX、XXといった3通りのACTN3多型が存在します。これらの多型の違いは、競技パフォーマンスや加齢に伴う筋力に影響を与える要因の1つとして考えられています。本プロジェクトでは、実験動物に同様の遺伝子変異を出現させ、この多型による影響をさらに詳細に検証するためにR型を持たないラット、すなわちACTN3遺伝子欠失ラットの作出を試みることになりました。

受精卵に対してガイドRNAとCas9を注入している図

CRISPR/Cas9を適用したACTN3欠損ラット作出のための準備

 前回のコラムでご紹介したように、CRISPR/Cas9法を用いて、ACTN3遺伝子の切断を試みます。CRISPR/Cas9で切断するには、まず切断したい遺伝子配列を認識し、そこまで誘導(ガイド)してくれるガイドRNAと、実際に切断するCas9を設計します。次にこれらを顕微鏡下で受精卵に注入し、母体へ移植された後、母ラットの出産によって子供が生まれます。しかしここで終わりではありません。なぜなら、生まれた子供全匹において遺伝子変異(ACTN3欠失)が生じている訳ではないからです。次の段階では、生まれた子供からDNAを採取して、実際にACTN3が欠損しているかを解析します。ここまでがACTN3欠損ラット作出の前段階となります。

 ACTN3欠損ラット作出までの道のりは中々に険しいですが、このプロジェクトを通して私は色々なことを学ぶことが出来ています。今後も本プロジェクトの進捗状況や新たに発見したことなどを発信していけるように尽力したいと思います。

※留意点
 今回作出を試みているACTN3欠失ラットとR型を持たないヒトのACTN3多型(XX型)は全く同じ遺伝子変異ではありません。ただし、遺伝子編集技術の取り入れやACTN3欠失により起こりうる表現型(骨格筋の構造や機能など)について念入りに検証をおこなった結果、今回のような流れで実施することが最適であるという考えのもとおこなっています。

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