学友会クラブ・サークル活動
  1. 主な研究内容

研究紹介

「分子レベルでの研究で、さまざまな事象が解明されています。」健康科学・スポーツ医科学系 中里 浩一 教授

運動をすると人の体はどう変化するか、
その関係を理論付けて解明するのが「運動生理学」です。

―ご専門の「運動生理学」とはどのような学問ですか?

「運動生理学」は、人の体が運動に対してどのように適応し、変化するかを研究する学問です。トレーニングをすると、なぜ筋肉が増大するのか? マラソンランナーは継続的に長期間トレーニングしても、なぜ筋肉が増大しないのか? など、トレーニングが臓器や組織にどう変化をもたらすかを競技ごとに調べていきます。

アスリートが筋肉を増やしたいと思った時、やみくもにトレーニングをすればいいというわけではありません。目的に合った運動刺激を与えるトレーニングを行うと同時に、生活の中での栄養習慣や摂取習慣をきちんと管理することが必要になります。そのような筋肉を増やすためのトレーニングをする場合、これまでの多くは経験や習慣に頼って行ってきたようです。ごく最近になって基礎研究にもとづいた理論的な裏付けができ、理論に基づく新たな筋力トレーニング法ができたりしています。運動と人の体の変化の関係を理論付けて解明していくという意味で、「運動生理学」は重要な学問です。

―「運動生化学」についてはどうでしょうか。

臓器・組織から分子・遺伝子レベルまでフォーカスして、運動と体の関係をより緻密な視点で解明するのが「運動生化学」です。たとえば「運動生理学」では、筋肉を増やすにはどんなトレーニングをすればよいかを考えてきましたが、今では、筋肉の中のどのようなタンパク質が筋肉を増やす時に関係してくるのかが、重要なテーマになってきています。すなわち、臓器や組織からより細密な分子・遺伝子レベルでの解析に関心が移ってきています。そういった意味で「運動生理学」は「運動生化学」を含むものであるといえますが、ざっくりと言えば、研究対象をよりミクロな分子や遺伝子レベルにまで絞り込んで実験、研究をし、ある事象を起こす主役となっているキープレーヤーとなっている分子や化学反応を見つける学問が「運動生化学」です。「運動生理学」のインプット――例えば筋力トレーニング――とアウトプット――例えば筋肉増強――の間にはまだまだ大きなブラックボックスがあります。そのブラックボックスの中の一部分一部分を明らかにしていくのが「運動生化学」と言ってもいいかもしれません。

筋肉の肥大に関与するタンパク質について、
どのような働きをするかを見極める。

―現在、先生が行っている研究にはどのようなものがありますか?

今、取り組んでいるテーマのひとつに「筋肥大」があります。これまでの研究で、筋肉の肥大には、いくつかのタンパク質が関与していることが分かっています。筋肥大に有効と言われているトレーニング法がいくつかありますが、細かく調べてみるとそのようなトレーニング法において、条件によっては筋肥大に重要なタンパク質自体は逆に減っている、すなわち筋肥大としては負の働きをする場合があることなどが分かりました。

また、負荷の軽いトレーニングでは筋肉は増大しないと考えられてきましたが、実はそうではないこともわかってきています。私たちの実験室でも仮に軽い負荷であったとしても1回ずつのトレーニングの結果を見ると、筋肉を増大させるタンパク質が増えている場合があることがわかったのです。このように、1回のトレーニング刺激が筋肉を大きくすることにとって正の働きをするか、逆に負の働きをするかをまずは検証しています。

―1回の刺激の正負の見極めは、どのような役に立つのでしょうか。

1回の刺激が正の作用を及ぼすトレーニングなら、それを複数回繰り返せば、多くの場合筋肉は増大します。正の作用を示すトレーニングは、それまでの経験的、習慣的な取り組みから、適切だと言われているものとは必ずしも一致しないようです。またその逆もあって、現場では有効といわれる方法が逆に一回の刺激では負の作用を示す場合もあるようです。従来現場で言われている考えを大事にしながら、科学的根拠のあるアプローチを加えることにより、新しいトレーニング法を生み出すことができると思います。さらに、同じトレーニングを続けていると、人間の体は適応順化して、あるレベルに達してからは効果が頭打ちになります。それは、筋肉を増大させるのに中心的な役割をするタンパク質の活性が落ちることが原因のようです。その場合、刺激を変えるために違うトレーニングを入れると、そのタンパク質が再び活性化して効果が上がり始めるということも実験的に確認できました。様々な状態にある筋肉に対して正の刺激を与えるトレーニング法はどういうものかを見つけて、それらを組み合わせることで、様々な方により効率的、効果的な科学的トレーニング法を提案することができると思います。

思いがけない発見もあるのが実験科学の面白さ。
それが「運動生理学」「運動生化学」の醍醐味です。

―弱い負荷のトレーニングでも筋肉を増大させられることが、最近の学会でも大きなトピックだそうですね。

日本はもちろん世界の研究者の方たちが弱い負荷でも筋肥大をするというテーマで研究を進めています。私どもの研究室でも似たような取り組みをしています。筋肉がピクッとするくらいの弱い刺激は従来、リハビリに用いる程度でした。けれども実験してみると、筋肉が増大することにつながる場合があることがわかりました。筋肥大とは別ですが、痩せるのに効果があるとされてきたリンゴポリフェノールに筋力増強の効果もあることが分かりました。弱い刺激のトレーニングにしてもりんごポリフェノールにしても初めはそのような効果があるなどとは思いもしませんでしたが、実験してみるとそれが実証され、まさに思いがけない発見につながりました。

―スポーツ損傷に関する研究もなさっているとのことですが。

ドイツ・ブンデスリーガ、シャルケ所属の内田篤人選手や、なでしこジャパンの澤穂希選手もそうですが、肉離れを再発するアスリートは数多くいます。なぜ肉離れは再発するのか、そのメカニズムは分かっていません。肉離れは筋肉が壊れるものだと思われています。それは間違いありません。ところが実験を進めてみると、筋肉とつながっている神経も一緒に壊れているのが分かりました。神経は筋肉をコントロールする部分。そこが壊れていたら、筋肉もうまく動かずにまたケガをするに決まっています。肉離れは筋肉とともに神経も壊れており、それが再発しやすい原因のひとつかもしれないということです。分かってみれば単純な仕組みですが、これはつい最近判明したことです。

学部で運動をしている学生にこの話をすると、皆、食い付いてきます。肉離れを発症中の学生は「それなら神経のリハビリをやればいいんですね」などと言います。しかし、どうすれば壊れた神経を修復できるか、どのようなリハビリテーションをすればよいかなどは今後の研究待ちです。肉離れに限らずけがが原因でアスリート生命を失ったりするのはかわいそうです。今回の発見で、治癒に対する新たなアプローチ法が見つかる可能性も高くなります。多くのアスリートが悩んでいる肉離れなど、できるだけ現場の役に立つテーマの研究をしていきたいと思っています。

学外からの学生など、多様な人が学びます。
企業の研究者と共同研究もするので刺激になります。

―先生の研究室ではどんな人が学んでいますか?

日体大だけにとらわれず様々な背景をもった方が進学してくださっています。現在は私のところに所属する大学院生は3名ですが、内訳は日体大からの進学が1名、韓国からの留学生が1人、柔道整復師をもった他大学からの進学者が1名です。過去の修了生は体育教員、過去の留学生の中には母国の国立スポーツ科学センターの研究員になった人もいます。また、東大などの他大学や企業から共同研究という形で実験をしにくる人が多いのも、本研究室の特徴かもしれません。他大学や企業の研究者の方はわざわざここに実験をしにくるわけですから、その意欲、熱意、研究に取り組む姿勢や仕事ぶりは目をみはるものがあります。またそのような姿勢を目の当たりにすることで、彼らと同じ土俵で今後、研究発表していくには、今のままではいけない、もっと頑張らなくてはと本学の学生さんたちに刺激を与えてくれていると思います。外部の人や組織とのつながりは、本研究室に大きなメリットを生んでいます。

―大学院の講義での先生の教育方針を教えてください。

学部では全体的な基礎知識の習得が求められますが、大学院では自分のテーマに沿って特化した分野の研究に打ち込みます。もちろん最終目的は、学位論文を仕上げることです。そのためには人の書いたさまざまな研究論文を読む力が必要になります。どのような実験方法が用いられているか、どんな論理構成かなどを理解するための知識や方法を会得してもらうことに、授業の中でも注力しています。

―学生の修士論文作成にはどのように関わっていますか?

学生さんがやりたいというテーマをいくつか挙げてもらい、その中から論文としてまとめられそうなものを私が選択しています。私自身は、分子レベルでさまざまな事象が解明されていくことや大学院生さん達となにか新しいことを見つけること自体が面白いと思っているので、テーマに強いこだわりはありません。たとえば学生が「筋肥大をやりたい」「遺伝子構造をテーマに」「スポーツ損傷の研究をしたい」などと言ってくるので、私も学生と一緒に懸命に勉強していくといった感じです。海外の学会で発表したり、学会誌に投稿して掲載されたりと、学生が完成させた論文はどれも高いレベルに到達できるように努力します。先ほど紹介したこの研究室でわかったことなどは院生さんたちと一緒に見出してきたことばかりですし、そのような研究の中にはスポーツ医科学の分野でもトップクラスといわれる学術雑誌に受理・掲載されたものもあります。日体大の実技の方たちが世界レベルで活躍しているように、私たちも他大学院のみなさんの論文に遅れをとることのないようにと日々努力しています。

一心に打ち込む気概とあきらめない姿勢が大切。

―最後に期待する学生像を教えてください。

日本には勉強に対して「一夜漬け」という言葉があるように、熱心かつ継続的な勉強を軽視する傾向があるように感じます。オリンピックメダリストは人の見ていない場所でも、日々、妥協のない必死の努力を続けているからこそメダルを取れていると思います。大学院も同じだと思います。二年間あるいは三年間という決まった期間ですから、勉強に必死に取り組むことを強く決意して大学院に入ってきて欲しいです。私は日本でもアメリカでも研究者の皆さんは土日も昼夜もなく研究のことを常に考え、取り組んでいる様子を見てきました。

もうひとつ大切なのは、自分で能力の限界を作らないこと。過去にはときどき4年間勉強をほとんどせずに競技ばかりしてきて大学院に進んでくる学生さんがいました。彼らの中には大学院在学中に必死で英語を猛勉強して英語の先行研究を読み、実験研究を必死で行って成果を得て、その成果を基に英語で論文を書き、英語で発表をするまでになった人もいます。ただし彼らは文字通り寸暇を惜しみ努力していました。「自分は頭が悪いから」などと自分で自分の限界を作ると、そこから先に進めません。IQや偏差値などは関係ありません。研究をする意気込みを持って進学していただきたいです。そして、本学出身者がオリンピックで多くの金メダルを獲得しているように、研究論文でも目覚ましい成果を得られるように学生さん達と一緒に頑張って行きたいと思っています。

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