学友会クラブ・サークル活動
  1. 研究活動

研究紹介

「常に新しいことへのチャレンジ。コーチは一生、学び続けます。」体育学科コーチ学研究室 伊藤 雅充 教授

スポーツで人は不幸になってはいけない、
というのが私の根本となる哲学観です。

―先生の考える理想のコーチ像とは?

私は「アスリート・センタード・コーチング」を掲げており、アスリートを常に中心に置いたコーチングを理想としています。コーチは教えることへの情熱を持っていることが求められますが、その情熱にはハーモニアス・パッション(※)とオブセッシブ・パッション(※)と分けられます。オブセッシブ・パッションとは、自己実現のエゴに取りつかれ、相手を無視したコーチからの一方的な情熱。これではアスリートは伸びません。コーチが自分自身の名声や評価を得るためというような、自己実現のエゴを追求する指導では駄目だということです。

コーチは自分が独裁者になってはいけないのです。お互いに理解し信頼しあってアスリートとよく話し合い、同じ方向を向いてさらなる向上を目指して頑張っていく。これがハーモニアス・パッションによるコーチングです。アスリートはプレーが楽しいからこそ、強くなれる。これは私の基本的な考え方です。学生たちには、そのようなことができるコーチを目指すよう指導しています。

※調和的情熱(Harmonious passion)および執着的情熱(Obsessive passion)とは、
 心理学者バラーランド博士によって提唱された情熱尺度

息子のテニスコーチの指導法を見て、
日本のコーチングとの違いに驚きました。

―先生がコーチングに興味を持ったのは、日体大の学内留学制度を利用してオーストラリアに1年行った経験が大きかったと伺いました。

家族全員でオーストラリアに渡った当時、9歳の息子はテニスをしていました。日本ではトップレベルの実力でしたが、オーストラリアでは世界ナンバー1のレイトン・ヒューイットを育てたPeter Smithというコーチの指導を受けるようになりました。現場を見に行った時、日本のコーチングとの違いに驚きました。そこで、コーチングとは何だろうと興味をさらに深めました。このような出来事が積み重なって、それまで専門としていたバイオメカニクスからコーチング学へと舵を切っていきました。

―Peter Smithの指導と日本の指導との違いとは、どのようなものだったのでしょうか?

第一に、息子をひとりの人間としてリスペクトして、どうしたらよいかを一緒に考えてくれます。そして、たとえお互いの年齢差があっても、対等な立場で同じ目線のワン・オン・ワンが基本であることです。

たとえばショットの練習の際、日本ではコーンを置いて、「ここに打ち込め」と何度も繰り返させたりします。ところがPeterはラリーの中でよいショットをした時に一度プレーを止めて、「ナイスショット!でも他にも打てたところはなかった?」と問い掛けます。1時間のレッスン中、10球くらいしか打たせないこともあります。それ以外の時間はすべて息子との対話で、息子が自分の頭で考えて、オプションを増やす方向に意識を向けさせます。

日本ではある種の型に嵌めるようなコーチングが一般的な傾向として存在していますが、Peterは、息子がこれから向かおうとしている高みにたどりつく方法を一緒に考えて、その実現への道を開拓していこうという指導です。オーストラリアでのこの体験は、私のコーチング哲学に大きな影響を与えてくれました。

学生に何を学べばよいか気付かせて、
「学びへの思い」を知る手助けをします。

―よいコーチの育成が先生の使命だと思いますが、担当されている「コーチング学特論」「コーチング学特論演習」はどのような進め方をしていますか?

指導の中で私からテーマを与えて、頭ごなしに教えるようことはしません。「先週は何があった?」などと学生に語りかけて、その話の中からテーマへつながるきっかけを探します。そして、学生にこういうことを学べばいいのだと自分で気付かせ、学びたいと思うことを知る手助けをしていくというスタンスです。

―現在、先生の研究室にはどのような経歴を持った学生が在籍していますか? また、学生たちはどのような学び方をしていますか?

学生の経歴はそれこそ多種にわたります。日体大の学部卒業生をはじめ、レスリングのオリンピックメダリスト、柔道や水球の元日本代表、水泳やテニスのコーチをしている人などさまざまです。在籍している学生の多くは、将来、コーチになることを目標としています。ほとんどの学生は教員免許を取得して、学校体育の教員を目指しています。また、プロコーチの道として、日本ではテニス・ゴルフ・スイミングなどがあります。

そんな彼ら、彼女らは、授業ではアクション・リサーチを行うことがメインになります。アクション・リサーチとは、学生ひとり一人がスポーツの現場に出向いて実際にコーチングする場面を、チームを組んだ他の学生がビデオ撮影をすることから始まります。コーチングをする院生の襟元にはワイヤレスマイクを付けて、声も同時に録音します。持ち帰ったその映像と音声を、私を含めた研究室の関係者で見てディスカッションし、改善点などをあぶり出していきます。遠方でコーチをしている場合などは、映像をWebにアップして、フェイスブック上でディスカッションすることもあります。

―ディスカッションではどのような指摘が出てきますか?

見ていて気付くことはすべて指摘していきます。たとえば、声掛けをした場面で相手からすぐ目を外した映像には、「言い放しになっているので、相手が理解し納得したと確認できるまで目は離さない方がいい」、あるいは球出しをしているテニスのコーチング場面では、「今の立ち位置では1人しか見られていない。あと2歩下がれば死角になっていたもう1人も見て、悪いところを修整できる」といった具合です。また、一方的な教えたがりにならずに、相手にどうすればよいかを考えさせるためにはどのような言葉を使えばより効果的か、などもディスカッションします。こうすることで、各自が自分のコーチングを見直すことができます。

コーチは一生学び続けなければなりません。
そのサポートになるよう研究室報を発行しています。

―学生たちとは大学院修了後も関係を保つための取り組みも行っているそうですね。

大学院修了後、専門のコーチや学校教員として職を得てコーチングをする立場になったとしても、ここで学んだことだけでは不十分です。世界のコーチングの世界では「コーチングは泥沼だ」という言い方がされています。何が何だか分からない、深みに落ち込むと抜け出せなくなる、昨日うまくいったことが今日もうまくいく保証はない、これで正しいという方法はない世界だということです。

先ほどお話ししたアスリート・センタード・コーチングを実践するには、コーチは一生、学び続けなければいけません。アスリートを中心に考えるなら、常に新しいことへのチャレンジがコーチには求められるからです。
コーチとして学び続ける姿勢を維持するための一助になればと、研究室報「COACH」を月刊で発行しています。コーチとして働く修了生の現場での経験・体験や見えてきた課題などをフィードバックさせ、研究室の最新の研究経過や報告などを合わせて編集しています。

コーチングはスポーツだけでなくビジネスの世界でも重要です。
コーチングを通して皆をハッピーにしていきたいですね。

―コーチング学を学ぶということは、どのような意味を持つのでしょうか?

これまで、数えきれない人数のコーチが経験を積み重ねてきました。さまざまな量的計測によるデータ上の数値には現れない部分をどのように読み取り、人間の知識としてまとめ上げていくかが、コーチング学です。コーチングの重要性は、スポーツの世界に限られたことではありません。たとえばビジネスの世界で上司が部下にガミガミときつい言葉で言っても、よい結果が得られるわけではありません。どのような言葉を使い、話し方をすれば、部下が自ら考えてよりよい対処法に気付き、次の機会に活かせるかを考えて行動することが上司には求められます。ビジネスの世界でひとりの人間をどう伸ばしていくか、あるいは仕事に取り組むチームをどううまくまとめていくか。これはまさにコーチングです。つまりコーチングとは、スポーツの世界でもビジネスの世界でも、それぞれが楽しく気分よくステップアップして、いかにしてより高い目標に近付いていくかをサポートし、人生を幸せに生きていくか、この世はいいものだと思えるようにするかを学ぶ方法なのです。コーチングを通して20年後、30年後の日本をどのようによくしていくかが、今の私に課せられた課題だと思っています。

―最後に、どのような学生に先生の研究室にきて欲しいと思っていますか?

まずは、自分でコーチとしてどこまでやろうと思っているのかと問いたいです。少し前にお話ししましたが、コーチは一生、学び続けなければならない仕事です。「ここまででいいや」などと自分でゴールをあらかじめ決めていては、進歩できません。とことんまでやり抜くという気概を持っていて欲しいです。そして、自主性と主体性を持って行動できること。コーチとしての自らの考えや夢を持ち、それを実現させたいという意志と意欲を持っている学生と一緒に、大学院生活を送りたいと思っています。

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